三つの荷物  1


「忘れ物は?」
 細々とした家財道具を買った帰り道、美穂は直之にそう尋ねた。
「無いんじゃね?」
 簡単に返ってきた言葉に、美穂は疑わしげな瞳を向ける。
「え? や、無いはず」
 直之は両手に提げた袋を覗き込むように見てから、また手を下ろした。美穂も一つだけ持った袋を持ち直す。
 桜の花びらが、風に揺られながら綿雪のように降っている。その様子は、今日から直之と暮らすこともあり、美穂に結婚式の紙吹雪を想像させた。
 桜で有名な、でもこぢんまりとしたこの公園は、街から少し外れた住宅街の隅に位置している。買い物の帰り道にゆっくり花を見ることができるのは、この上ない幸運だと美穂は思った。
 しかも陽の落ちかけた今は、ちょうど人が入れ替わる時間帯なのだろう。帰り支度をする家族連れが数組と、場所取りをするどこかの会社員が何人かいるだけで、あまり騒がしくもない。
「毎年見られるといいわね、」
「見られるだろ、近所なんだし」
 またすぐ返された言葉に、美穂は"一緒に"と言いたかった気持ちを飲み込んだ。
 ふと、公園の奥、一台だけあるベンチに、着物を着た二人が並んでいるのが美穂の目に入ってきた。お爺さんとお婆さんのようだ。二人の間には大きめな荷物が一つ置いてあり、その分だけ離れて座っている。すでに散った花びらが足元に舞い、オレンジ色に変わってきた光の中、まるで舞台の上のように輝いて見えた。
「美穂?」
 直之は美穂の数歩先で待っていた。駆け寄って微笑みを向ける。

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