二度目の出会い  1


 なだらかな丘を下から見ると、視界のほとんどがピンク色の花で埋め尽くされていた。大きく息をすると、花の香りが身体に溶け込んでいく。
 約束していた友達が来られずに一人になってしまったけれど、ここの花を見に来てよかったと思った。花畑の奥まで歩を進めてかがみこみ、足元の一輪だけを見つめる。なぜか、ピンク色のはずの花弁が赤く見えた。
「痛っ」
 花に触れようとした手を慌てて引き寄せ、人差し指を見た。見た目小さな切り傷が、心臓の鼓動と共に存在を主張する。みるみる膨れあがった血液が、雫となって落ちた。ポツッと音を立てたそこにはすでに花は無く、代わりに見えたのは鋭利な刀の切っ先。
「お、女っ?」
 その刀の前に、誰かの足が割り込んだ。見上げたそこには剣道の防具に似た暗色の鎧を着た人が、教科書でなら見たことのある飾りの付いた兜まで被って立っていた。
「立てっ!」
 その鎧の人に腕をつかまれ、思い切り引き上げられる。まるで夢から覚めたように、轟音が体中に響いてきた。刀のぶつかる金属音に怒号、土を踏む地鳴りのような音。
「な、何?」
「お前こそ何だっ、いきなり湧いて出てきやがって」
 そう言ったその人の後ろに刃が振り上げられた。思わず悲鳴を上げながら、腕を引っ張り返す。空を切った刃が土を叩く音が聞こえた気がした。
「逃げろ、あっちだ!」
 彼が方向を示した指の先も、たくさんの鎧が見える。死の恐怖が身体をすくませ、動きが取れなくなった。
「くそったれ! 来いっ!」
 また腕をつかまれ、引っ張られるままに走る。今度は素直に足が動いていた。相変わらず怒号が襲ってくるが、身体を抱えるように回された腕が心強い。
「どこから来たんだ」
 走りながら彼が聞いてくる。
「どこって、……」
 分からないものは返事のしようがない。いきなり映画で見たような戦の中だったのだから、説明のしようもなかった。

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