二度目の出会い 2


「じゃあ、名は何という?」
「江上美穂」
「女神?」
 何を言うのかと立ち止まって振り返ったそこに、振り上げられた刃がきらめいた。思わず堅く目を閉じる。
「うわぁ!」
 今まで問い詰めていた声で、悲鳴が聞こえた。目を開けると、私の代わりに血に染まった身体が覆い被さってくる。悲鳴も上げられないまま、その身体の下敷きになった。とどめを刺そうとしたのか、切っ先が彼の背に突き立てられる。飛び散った血が花に見え、さされる痛みに耐えようときつく目をつぶった。
 その痛みが来ることはなかった。目を開けると手には赤い花。花を摘むためにかがんだ、そのままの体勢だった。夢でも見ていたのかと思いながら立ち上がり、体中が疲れ切っていることに気付く。
 人差し指の先には、刃でできた傷が残っている。その刃を軽く探してみたが、目に見える範囲には存在していないようだ。
 妙にリアルな夢を見た、そう思うことにする。こんなことを追求していたら、頭のおかしな奴と思われてしまうだろう。すっかり忘れてしまうためにも、いつまでもここにいることはできない。日が傾いてきたその丘に背を向け、止めてある車に向かった。
 ふと道ばたの小さな石碑に気付く。刻まれた文字の中にある、戦地跡、という漢字が目に飛び込んできて、心臓が音を立てた。
「古戦場?」
 手の中には、戦場には似合わない、でも血の色をした美しい一輪の花がある。その花を見て安らぐというよりは、痛みが胸を支配していた。
 私は彼にとって女神なんかじゃなかった。後ろ髪を引かれる思いを振り切って、車のドアに手をのばす。
「あの」
 かけられた懐かしい声に視線を上げ、その顔に驚いた。
「決してナンパじゃないんです。けど、どこかでお会いしたことがありませんでしたか?」
 兜はないけれど、ほんの少し前に私を助けようとして斬られた顔が、苦笑を浮かべて恥ずかしげに頭をかいた。
「ごめんなさい、私あなたの死神です」

 ― 了 ―


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