オイラのシッポ 1


 人間は『犬は人間の友』なんてことを言っているようだ。実際、そういう犬も見たところ二匹に一匹はいる。だけど、オイラは違う。友達なんかじゃない。
 人間なんて勝手なもんで、自分と住んでいる犬さえ友達ならば、あとの全部が目の敵でも、友達ってことにしてしまうんだ。人間と住んでいるあいつらだってそうだ。人間なんぞに犬の誇りでもあるシッポを振ったりして。ああ、考えるだけでもイヤになる。あいつらなんて犬の風上にも置いてなんかやるもんか。
 オイラ? そうだな、人間で言えば(これは君たちに分かるようにするには仕方ないから、当てはめてやるんだぞ)青年ってとこだな、雑種って種類の。人間にもハーフって人種がいるだろう? 同じようにオイラもなかなかのハンサムなんだぜ。信じるか信じないかは顔を見せられない分、残念だけど、君たちの想像に任せることにしておくよ。

 ところで君たちは『イモ虫』って知ってるかい? 畑ってところで丸い葉っぱと一緒に君たちが育てているんだから、知らないとは言わせないぜ。でも、その先まで知っているかい?
 彼らはある程度大きくなったら、殻をかぶって堅くなってしまう。そして前とはまったく違った形になって出てくるんだ。オイラが見たんだから間違いはないよ。そりゃあ、ちょっと目を離したことはあったんだけどな。まさかイモ虫がオイラ一匹をだますためだけに、あのヒラヒラしたものと入れ替わったなんて考えられないもんな。まったく驚いたもんだぜ、これには。
 よくまわりを見てみると、みんながみんなこうやって変わるんだ。君たちだって『手品会場』って場所で、たくさんの人がが周りを囲んで隠している中で殻に入っているじゃないか。隠そうったって無理なことはこれで分かっただろう? だからいつかはオイラだって殻に入る時がくるんだ。神様が犬にだけ殻をくれないなんてことがあるはずはないからな。オイラもきっともう少しで殻をもらえるはずなんだ。つい最近まで体が大きくなってきていたのが最近止まってきたんだ。まぁ、殻さえもらえば大きくなれるだろうし。楽しみだなぁ。オイラはいったいどんな形になるんだろう。
 ま、それは変われば分かることだから、殻をもらったら人間にじゃまされずに殻に入れるところを探しておくことにしよう。できるだけ静かなところがいいな。あの角の先なんてどうだろうか。
 ドンッ!
 うわ! なんだこれは!! 急に暗くなったと思ったら身動きができなくなってしまった! これは殻だろうか。わりに柔らかいけどな。苦しくなってきた。こんな曲がり角で殻をかぶってしまうなんて。邪魔だからって、人間に捨てられたりしないだろうか。

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