オイラのシッポ 4


 僕は頑張って逃げ出そうとした。ひょいと持ち上げられて、今は腕の中にいる。その人の顔を見ると、とても強そうな小学五年生くらいの人だ。いや、もしかしたら六年生かもしれない。大変だ! どこかに連れて行かれてしまう。
「(誘拐だ、助けて!)」
 叫んだら犬の声がした。ああ、そうか。僕は今、犬だったんだ。誘拐じゃないんだ。とたんに悲しくなってきた。元に戻れたらなぁ。せめて、人間だったらなぁ。僕は逃げるのをあきらめて、何となく話しを聞いていた。
「どうするんだ、この犬」
「家で飼おうと思ってさ」
「おまえんとこ、親が動物嫌いじゃなかったのか?」
「隠れて飼うよ」
「だけどこの犬、さっきの家の犬なんじゃ?」
「違うさ、首輪もついていないし」
「そうか、それじゃあな」
「じゃあな」
 さっきポチとぶつかった所の角を曲がった。ちゃんと道を覚えておかなくちゃ帰れない。ああ、まいっちゃうな。
 この人の家は、そこからほんの少し行っただけの、いつもの公園からすぐの所だった。助かった。迷わなくてすむ。僕はそこの家の物置に放り込まれた。ガンと頭をぶつけた。痛いよぉ。あれ? 誰かいる?
「(だあれ?)」
 女の子みたいだ。
「(どこにいるんだい?)」
「(すぐ目の前よ)」
「(見えないよ)」
「(目が慣れてないからよ。あなたなんて名前? なかなかハンサムね)」
 そんなこと言われたって、ちっとも嬉しくない。だって僕の顔じゃないんだから。だんだん目が慣れてきた。なんだ、この娘はたいしてカワイくないや。せっかくモテるんならもっと……。
「(あなたも捕まったのね)」
「(そうなんだ。帰りたいよ)」
「(帰るところがあるのね。残念。じゃあ、もうすぐご飯を持ってきてくれるから、その時にでも逃げればいいわ)」
「(君は?)」
「(ココが気に入ってるの)」
 それからいろいろなことを話した。ノラ犬は人間にいじめられることが多いんだって。それに、保健所って所から僕がトンボを捕るように、アミで捕まえられちゃうんだそうだ。そのあと帰ってきた仲間を見たことがないから、きっと食べられちゃうと思っているみたい。人間は犬を食べたりしないって教えてあげようと思ったけど、僕が人間だってばれたりしたら大変だから黙っていた。それに、捕まえたあと、どうしているのかは全然知らないからなぁ。

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