至高の空 7


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 そのレースでの俺の戦績は、ポイント圏内どころか、驚くべきことに3位だった。今までで最高の順位、しかも初の表彰台だ。ここに上ることが、こんなに快感だったなんて知らなかった。ポイントもせいぜい一桁か10何ポイントだったのが、一気に60点だなんて不思議な感じだ。しかも、まだ上がいるってのが嬉しい。こいつらは至高の空以上に、違う世界を見ているのかもしれない。もっと巧くもっと速くなって、近い将来、必ず俺もその世界を見てやるんだ。
 ライバルは何位だったか、ポイント圏外、30位以下だったことは覚えている。それよりも、会場の隅から見ているそいつらの恨めしそうな顔2つは、下手したらトラウマになるんじゃないだろうか。これ以上寄ってきたら、Vサインでもして撃退してやろうと思う。
 表彰台を降りて、コーチの所に駆け寄った。まわりに人がたくさんいたが、気にせずに頭を下げる。
「ありがとうございます」
 そう言って顔を上げると、そこにコーチの笑みがあった。あちこちからシャッターの音がする。
「やっぱりユキが付いているだけあるね!」
「は?」
 訳が分からず問い返すと、コーチは俺の肩をポンと叩いた。
「名前だよ、なまえ。ユキヤにはユキが付いているから、ダウンヒルレーサーには向いている」
 いやあの。ユキって、もしかして雪のことか? 漢字の持つ意味を少しも考えていないじゃないか。まわりの記者達がペンを走らせる音に、軽くめまいを覚える。
 確かに、俺たちの heavenly blue なんてことをこの場で言っても恥ずかしいだけだし、下手をしたら頭がおかしいんじゃないかと言われてしまうかもしれないから、黙っていた方がいいだろう。
 だが、まさかとは思うがこの人は、本当に名前にユキがあるからコーチに就いてくれたんだったりしないか?
 いや、どっちだとしても、この名前が切っ掛けでコーチをしていると思われたら、heavenly blue 以上にバカにされそうな気がするんだが。
 まぁでも、世間的には征弥という名前のおかげで、このコーチを獲得できたってことになるわけだ。一応、名付けてくれた母に感謝を表明しておいた方がいいかもしれない。久しぶりに母に電話して、F1レーサーになれなくてゴメンとでも言っておこうと俺は思った。

―了―


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