至高の空 6


 一点の曇り無く、高く深く青い空。今までこんな美しい空色は見たことがない。きっとこれがコーチの言う至高の空なのだ。ほんの一瞬だったが、その色はしっかりと脳裏に焼き付いた。
 着地して左にカーブする。バーンに力を加えたと思えないくらいスムーズに回ったからか、逆にスピードが乗ってくる。セーフティネットすら、すっ飛んでいく景色に同化して視界に入らない。赤い旗門に誘導されてでもいるように、ラインがひどく自然だと分かる。
 とてつもなく冷静に興奮している。あの青がすべてを払ってくれたせいだろうか。ウェアを裂くように通り過ぎる鋭い空気さえ、今、肌そのものに触れているように感じられる。
 ゴールゲートが見えた。身体に合わせて曲げてあるポールを抱え込み、強風になってぶつかってくる空気を縫って進む。研ぎ澄まされた感覚が、ゴールゲートを抜けるまで、ずっと続いていた。
 わき上がった歓声の中、ゴールスペースの隅まで使ってようやく止まった。無風の世界が戻ってくる。まわりの声が、いつもより大きい。単純に、今日は人が多いのか、と思った。
 飛び交う声の中、首を回してコーチを探す。その視界に入ってきたタイムボードには、自分のタイムとは思えないくらいの好タイムが表示されていた。少しの間茫然と、口を開けて見ていた気がする。横から興奮したコーチが抱きついてきた。
「ユキヤ! おめでとう!!」
「なっ、何が?」
「このタイムなら確実に上位だ、ポイント圏内だよ!!」
 顔を突き合わせ、グリグリと髪を混ぜるように撫でられる。そうか。ポイントを貰えるかもしれない。後からあてがわれた順番で滑って上位に食い込めたのなら、それはそれで凄いラッキーだと思う。スランプも脱出できたかもしれない。信じられないが現実だ。あの空のおかげなのだろう。
「ユキヤ、その顔はアレを見たんだね?」
 コーチの意味ありげに微笑んだ嬉しそうな顔に笑みを返す。
「分からないです。けど、凄く綺麗な空でした」
「そうだよ、それこそが私たちの heavenly blue なんだ」
 コーチはもう一度俺を抱きしめると、背中をポンポンと叩いた。

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