鞘の剣 3-2


「フォース、やめて!」
「フォースだ?!」
 男が目を丸くした途端、フォースがスッと前に移動し、短剣を持った手が突き出された。思わず私は耳をふさいでギュッと目を閉じた。それでも聞こえてきたドサッと男が倒れる音に、身がすくむ。
「リディア?」
 その声にゆっくりと目を開けた。すぐ前に心配そうにのぞき込むフォースの顔がある。目の端に倒れている男が見えた。
「な、なんてコトするのよ!」
 耳を押さえていた手で、私はフォースの鎧を叩いた。フォースはキョトンとして、逆手に握られた短剣を私に見せた。
「当て身を食らわせただけ、なんだけど?」
 その言葉で、身体の力が全部抜けた気がした。安心したらドッと涙が出てきて、その場に座り込みたくなる。フォースは支えるように私を抱きしめた。
「ゴメン、脅かしちゃった? 大丈夫だよ、大丈夫」
 腕に少し力がこもった。子供扱いされてるのは分かる。それでもフォースの腕の中だと、私はおかしくなる。強く抱きしめられるほど身体が楽になって、息が苦しくなるほど気持ちが安らいでくる。どうしてこんなにあまのじゃくなのだろう。会ってすぐは、素直にありがとうってキスができた。あの頃より今の方が、もっとずっと好きなのに、キスも怖くてできないなんて。
「一人で来たの?」
 フォースの問いに涙声で返すのがイヤで、私は声を出さずに首を横に振った。
「じゃ、ミレーヌさんとはぐれちゃった?」
「フォース!」
 うなずいた途端に聞こえた低い声に驚いて、私の身体がビクッと揺れた。フォースは私の背をポンポンと叩き、そっと体を離して顔をのぞき込んでくる。私は慌てて涙をぬぐった。ガチャガチャと鎧を着た人が駆けてくる音が、フォースの向こう側で止まる。
「あぁ、バックス。やっと来た」
「いきなりいなくなったと思ったら、なんだこれ?」
 背が大きくてガッチリしたその騎士は、倒れた男を指さした。フォースは冷淡で軽蔑したような視線を倒れた男に送る。
「挙動不審だったから追いかけたら、案の定これだ」
 フォースは鎧の傷をコンと叩き、手にしていた短剣をその騎士に渡した。大きな騎士が顔をしかめる。
「あれま。ウェルさんから受け取ったばかりで。嘆かれるぞ」
「刺されろってのか? 鎧は使ってなんぼだろ」
「バカ、剣を抜けって言ったんだ。何かあったらどうするよ」

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