レイシャルメモリー後刻
第6話 変化、ということ 2


「そういえば、またラジェスにクロフォード様がいらしてるとか?」
「ああ」
 フォースは苦笑して肩をすくめた。思わずのどの奥で笑いをこらえる。
「そんなにフォースに会いたいなら、いっそのことラジェスにでも住めばいいのにね」
「冗談! 来なくていい。いつまでもマクラーンを留守にするわけにもいかないだろ」
「レクタードとスティアはマクラーンにいるんだろ?」
「そうだけど。今回はリオーネ殿とニーニアまでルジェナに来てるんだ」
 まぁ、クロフォード様の場合は、愛するってのが、そういうことなんだろうと思う。フォースが本気で嫌だと思っているかどうかは、……、思っているかもしれない。
 奥からリディアさんがトレイにお茶を乗せて入ってきた。護衛のイージスさんがドアの外にいることを除けば、ここに住んでいた時とほとんど変わらない風景だ。遅れてアリシアさんも入ってくる。その腹はとても大きい。
「どうぞ」
 リディアさんが、お茶を俺の前に置く。
「ありがとう。って、なんだかこっちが客みたいだな」
「ホントよね。リディアちゃん、ごめんなさいね」
 アリシアさんは、いいえ、と首を振ったリディアさんに笑いかけ、フォースを見てニヤッと笑う。借りちゃって悪いわねとか、言葉にしなくなっただけマシだとは思うが、その嫌な笑いは家族でフォースを虐めるための胎教みたいだ。腹の中の子がどんな風に育つか見ものだったりする。
「少し見ない間に、ずいぶん大きくなりましたね」
 そう言葉を向けると、ええ、と見た目は上品に答え、アリシアさんは腹を撫でた。
「もっと大きくなりますよ。早く出てきて欲しいような、ずっとここにいて欲しいような、変な感じです」
「治療院の仕事はやめないんですか?」
 続けて聞くと、アリシアさんは笑い声を立てる。
「ギリギリまでお仕事しようと思っています。こういうのって明るい話題になるんですよ」
 話題のために妊娠してるんじゃないのだろうが、確かにベッドにいる怪我人には、明るい話題……、というか、怪我人は根本的にそっちは元気なんだろうから、むしろスケベな話題になっていそうな気がする。思わず冷めた笑いが漏れたが、フォースはそれが目立たないくらい、大きなため息をついていた。
「なによ」
「いいや。なんでも」
 フォースはアリシアさんに面倒臭そうに返事をすると、そっぽを向いた。そうやって話を蒸し返さなくなったあたり、二人とも成長してるんじゃないか、なんて言いたくても、さすがに口には出せない。ちゃんと察しているのか、リディアさんがフォースに笑みを向けた。
「アリシアさん、これからお仕事なんですって」
 部屋を通り過ぎていくアリシアさんを、フォースは眉を寄せて目で追った。扉のところまで行くとアリシアさんは振り返り、じゃあね、と手を振る。
「気をつけろよ」

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