レイシャルメモリー後刻
第6話 変化、ということ 3


 そう言ったフォースに笑みを向けると、アリシアさんはドアを開けた。あ、と立ち止まり、もう一度振り返る。
「サーディ様、お客様です」
 アリシアさんはその客に礼をすると、外に出て行った。客が誰だか分からないが、自分の客なのは間違いなさそうなので、扉へと足を向ける。
「サーディ様」
 妹のスティアと同じ歳で友人でもあるその女性は、最近何度か身辺に顔を出していた。彼女はスティアが俺の后候補にあげたうちの一人だ。少し控えた場所に、護衛しているらしい騎士もいる。いつもきちんと髪をまとめ、いかにも女の子らしいドレスを着ているが、今日は少し派手な気がした。
「どうかしましたか? 今日はライザナルからの客が来ると」
 昔から笑顔で接してくる者が多いせいで、彼女が心から笑っているのでないことは分かる。だが、素知らぬ振りでそう言うと、彼女は視線を部屋の中に向けた。
「ええ、できたら紹介していただきた、あ……」
 ポカンとしたその顔に後ろを振り向くと、フォースがリディアさんの腕を引っ張って顔を近づけ、キスでもしそうな距離で話をしているのが目に入った。
「紹介? 誰に?」
「……、い、いえ、それは。あの、いいんです」
 ハッと我に返ったように慌てた彼女は、両手の平をこっちに向けて振った。その貼り付けたような笑みと仕草で、リディアさん抜きでフォースだけに紹介して欲しかったのだろうと察しが付く。
「そうですか。じゃあ」
「え? あ、はい。また」
 その娘はヒョコッと頭を下げると、いつもより早足で門を出て行く。お付きの騎士はしっかり敬礼だけすると、彼女の後を追っていった。
 フォースなら前からいたじゃないかと変に思い、次期皇帝という地位のせいかと思い当たる。そういうことなら、心遣いも必要ない。適当に相手だけしていればいいだろう。
 それにしても、メナウルよりライザナルなのか、俺よりフォースなのか。いや、目移りしてくれて分かりやすい反応をしてくれたから幸運だったのだけど。
 何にしても、奥方の存在というのが羨ましい。ああいう面倒な女性は、仲を見せつけるだけで去っていくのだから。でも、あんな面倒なのでも妻にすれば、他の面倒は無くなるんだよな。
 自分の考えていることが可笑しくて笑い出しそうになる。その妙だろう顔をフォースに見られたくなくて、そのまま彼女たちを見送った。その視界に、荷物を抱えたユリアが入ってきた。ユリアは、帰っていく女性を振り返って見て、前に視線を戻してから駆け寄った俺に気付く。
「持つよ」
 キョトンとしているユリアに笑みを向け、手にしていた荷物を奪い取って部屋にとって返した。
「サーディ様、そんな。私が」
 ユリアは俺の後から慌てて部屋に入ってくる。
「リディア様! ご到着されていたのですね」

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