レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 4


 その言葉でリディアは、フォースが持っているサーペントエッグにあったエレンの肖像を思い出した。どちらか先に生まれた方が、王位継承権を得られたのだから、騒ぎも大きかったに違いない。でも、お産が始まってしまったら、他のことを考える余裕は無かっただろうと思う。
 タスリルは机から何か手にすると、リディアのところへ戻ってくる。
「お守りだ。お前さんから返しておやり」
 リディアが差し出した手に、フォースのエッグが乗せられた。
「どうしてこれを……」
「ルジェナに来た時、レイクスからふんだくって持っていたんだよ。ちょっとは緊張感が持てるだろう。どうしたって継ぐのはレイクスなのだから、誰が持とうと関係ないんだけどね」
 タスリルの言葉で、ヴァレスの神殿にいた時、リディアもエッグを預かったことを思い出した。その時の王位継承権は、二人で一緒に暮らすためには邪魔なだけだった。でも今は、その地位をきっちり遂行していくことが、二人のためでもある。しかも、産まれるのが男の子だったなら、王位継承権二位の数字が付く。大変な思いをしなくてはならないだろう。リディアは思わずお腹を撫でた。
「最後まで見守ることができるなら……」
 そのつぶやきに、タスリルは目尻のしわを下げた。
「エレンも同じことを言っていたよ」
 その名前を聞いて顔を見ようと、リディアはエッグの表面、金の細工に爪をかけて開いた。そこから落ちた小さな紙切れをつまみ上げ、そっとのぞいてみる。
「これ……」
 そこにはリディア自身が書いた、幸せでいて、という文字があった。ずっと入りっぱなしになっていたのだ。
 もう随分昔から、リディアはフォースの幸せを願ってきた。そして今は、自分の幸せもフォースのためだということを知っている。お腹の子を産むことが、二人の幸せの一部分になるだろうことも。
 紙の切れ端をていねいにたたみ、リディアはエッグの紋章の上に置いた。反対側にはクロフォードとエレン、赤ん坊だったフォースの肖像がある。
 この絵が描かれた頃から、フォースを思う気持ちはたくさんの人で繋がっている。同じように、まだお腹にいる赤ちゃんを思う気持ちも、きっとたくさんの人で繋がっていくだろう。そのためにも、まず無事に産まれて欲しいとリディアは願った。
「一緒に頑張りましょうね」
 お腹の赤ん坊に優しく語りかけると、リディアはエッグの左右を合わせて閉じた。

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