レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 7


「側にいられないなんて」
「見てたって心配は変わりませんよ」
 チュエルはそう言って楽しげに笑う。確かにどんな状況でも心配には違いない。
「それに、陛下にご連絡もなさいませんと」
「それは、するけど……。あ」
 連絡と聞いて、フォースの脳裏にシェダの顔がよぎった。シェダも呼び戻さなくてはならない。出立したばかりなのだから、連絡も早い方がいいのだろう。そう分かってはいても、フォースには後回しにしたい気持ちが大きかった。
 リディアが浴室から戻ってきた。身体を締め付けない、夜着のような服に着替えている。
「フォース」
 リディアはフォースのすぐ前に立つと、笑みを浮かべた。
「頑張るわね」
「待ってるよ」
 そう言ってうなずき、フォースはリディアの頬にキスをした。
「父を呼び戻すのは、もっと後でいいわ」
 リディアの言葉に、思わず噴き出しそうになる。
「大丈夫だよ。むしろ、あとから何度も言われる方が面倒だろ?」
 あ、と口を押さえ、リディアが苦笑した。気を使ってくれているのが分かる。でも、気遣わなくてはいけないのは自分の方だとフォースは思う。
「サッサとやること終わらせて、隣にいるよ」
 そう言って視線を合わせ、うなずいたリディアとキスを交わした。
 ベッドの側にいたタスリルが、リディアを手招きした。フォースはリディアを連れてタスリルの側に立つ。
「よろしくお願いします」
「ああ。待っておいで」
 目尻のシワが微妙に下がったことで、タスリルが優しい笑みを浮かべたのだと、フォースには理解できた。しっかりと礼をして廊下に出る。
「レイクス様」
 迎えたジェイストークと警護する兵士の他には、女性の使用人ばかりが残っていた。
「男は廊下にいるのも駄目なのか?」
「いえ。各自、自主的に持ち場に戻っております。すでにリディア様は通られましたしね」
 ジェイストークの笑みのせいで、半分冗談なのだと分かったが、フォースは返事の代わりにため息をつき、執務室へ向かって歩き出した。

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