レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 9


   ***

「レイクス様、シェダ様とミレーヌ様が到着されました」
 もう何度やり過ごしたか分からない痛みが治まった時、リディアの耳に廊下からのジェイストークの声が届いた。ドアは開いていて、代わりのように女性の騎士が二人、廊下を向いて立っている。部屋には十五人ほどの女性がいるが、それぞれ無駄口が無いせいで、声が筒抜けになっているのだ。
「リディアはどこかね?」
「え? あ、隣ですが」
 シェダがたずねる声と、フォースが答えた声が聞こえた。フォースが隣の部屋にいたのは知っている。リディアは声が聞けただけでも嬉しかった。
「待ってください」
「なんだね?」
「男性は部屋に入れないんです」
「私は父親だ。リディアにとって男性ではない」
 シェダの言葉に、リディアは思わず顔を引きつらせた。すぐ側にいるタスリルがヒヒヒと笑い声を漏らす。リディアは恥ずかしくて顔が赤くなった気がした。
「女性のみ入室いただけるしきたりとなっております」
 今度はジェイストークの声だ。そう言い換えられては、一言も返す言葉がないのだろう、シェダの声が聞こえなくなった。
「あ、ミレーヌ様はお入りいただけます。どうぞ、こちらへ」
 二人分の足音が近づいてきた。ミレーヌだけが姿を見せる。ミレーヌはニッコリと微笑んで部屋に入ってきた。
「お母さん。あ、痛……っ」
 気が緩んでいたからか、予測していたはずの痛みに思わず声が漏れる。リディアは慌てて息を吐ききったが、その息は苦しげな声になって部屋に響いた。ミレーヌが側に来て腰をさする。
「一度乗り越えるごと、産まれてくるのが近づいているのよ。もうすぐ会えるわ」
 その言葉に、リディアは細かな息を繰り返しながらうなずいた。痛みのある時間は長くなり、間隔も狭まっている。たくさんいる人々の数だけ、こんな痛みがあったのかと思うと信じられない気持ちになる。
 でも、その数だけ乗り越えた人がいるのだ。自分も乗り越えて母になり、ミレーヌが見せてくれる優しい微笑みで、赤ちゃんを見つめたいと思う。もう少しでまた痛みは去るのだと、リディアは自分を励ました。
 痛みが消えてホッと息をついた時、悲鳴のような声を上げてしまったことを思い出した。隣の部屋にいるのだから、フォースにも聞こえてしまっただろう。
「心配させちゃったかしら……」
「ああ、たくさん心配させておやり。そうでもないと、割に合わないよ」
 タスリルはそう言って笑うと、お腹に手を当てる。いつものようにブツブツと呪文の詠唱が聞こえ、リディアは安堵した。ミレーヌは、かしこまってそれを見ている。
「もうじき息みたくなるだろうけど、いいと言うまで力を入れちゃいけないよ」
 その言葉に、はい、とリディアはうなずいた。ずっと持ったままでいるサーペントエッグが、温かに感じた。

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