レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 4


「ご懐妊か?!」
「有り得る」
 リディアの外見には変わりはない。だが、タスリルのことだから、腹の中の子供が動く前に分かるのかもしれないと思う。
「レイクスかリディア様が何かおっしゃるまでは、黙っていた方がいいな」
「ああ」
 ジェイストークはそう返事をしながらも、すぐそこに迫ってきた研究所にいる父ペスターデにさえ話したくて仕方がないことに気付いた。
「アルトス?」
 呼びかけると、ん? と、アルトスがこちらを向く。
「オルニには楽園への土産に教えてやった方がいいんじゃないか?」
 まだリディアに会いたいと言っているらしいオルニが、どんな反応を返すかと思うと、非常に興味深い。アルトスは短く息で笑った。
「あきらめさせるには、いい手かもしれんな」
 二人で笑みを浮かべながら、研究所の扉を開ける。そこではペスターデが、ちょうど食事を取っていた。
「やっと来たか」
「父さん?」
「オルニとノルドのことだろう」
 奥を指し示したその不機嫌そうな目に、ジェイストークは思わず微笑んだ。
「そうです。彼らは楽園に移送します」
「楽園?」
 ええ、とジェイストークは力強くうなずいた。
「拘束する」
 アルトスは足を止めることなく、奥の部屋へと足を進めていった。

   ***

 山を下りてから一行が乗り込んだ馬車は、ルジェナに向けて進んでいた。その馬車には、罪人を乗せるための工夫がされている。少しだけ車体が長く、細かい鉄格子で後ろ半分を仕切ってあるのだ。
 今はそこに、後ろ手に縛ったオルニとノルドが入っていた。オルニは床にあぐらをかいて不機嫌そうな顔を横に向け、ノルドは眠っているらしく寝そべっている。こちら側には一緒にアルトスが乗り込んでいるが、見張るまでもなく視線は外に向いていた。
「どうしてもリディア様から引き離したいんだな」
 オルニの言葉を聞いて、ジェイストークは短く息をついた。
「引き離すもなにも、勝手にへばりつこうとしているだけだろう」
「リディア様は俺を捨てたりなさらないはずだ」
「覚えてもおられないだろうに、捨てるも捨てないもない」
「何をバカなことを」

5へ


前へ シリーズ目次 TOP