レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 5


 ジェイストークは、バカはどっちだ、と思う。確かにこの状態で放っておいたら、何度でもリディアを拉致しようとするかもしれない。こんな輩はサッサと処分してしまうに限ると思う。
「相手にするな」
 相変わらず外を見ているアルトスが、そう言葉にした。ジェイストークが努めて無視しようと目を閉じると、オルニはますます声を大きくする。
「それは反論しているうちに尻尾が出るからだろう。あんたたちこそ罪人だ。レイクスの立場を守ろうとするばっかりに、リディア様に一生辛い思いを押しつけるなんて。女は金があれば幸せってわけじゃないんだぞ。リディア様にはリディア様の幸せがあるってのに、どうしてそれを追求」
「やかましい!」
 アルトスの声に、オルニは一瞬固まった。
「リディア様の名を口にするな。汚れる」
 相手にするなと言ったのはアルトスだが、どうも我慢しきれなかったらしい。アルトスの怖さを知らないのだろう、オルニはニヤッと顔を歪ませて笑った。
「リディア様は俺のモノだ。リディア様リディア様リディア様、リディアリディアリディア……」
 ガシャっとアルトスの鎧の音がした。ジェイストークが目を開けると、アルトスが立ち上がっている。目を合わせてきたアルトスに苦笑を向けると、アルトスは白く長い布を手にした。その間も、オルニはリディアの名を連呼している。
「やるのか?」
 ジェイストークの問いに、アルトスはうなずいた。しゃっくりをするように息を吸い、オルニの顔が青くなる。
「てっ、てめぇ、何をする気だ!」
 アルトスは身体をかがめて鉄格子の扉をくぐり、震える声を気にもせずにオルニに近づく。
「楽園への土産をやる」
「楽園? 土産?」
 アルトスはオルニの髪をつかんで上を向かせた。
「なにしやが、むぐ」
 オルニの口に布をかませ、頭の後ろに縛り付ける。布が大きいせいか、口に入りきらなかった布が、鼻の下からあごまで覆っていた。まだ何かしゃべっているらしいが、その声は言葉にならず、布の隙間から細く漏れるだけになっている。
 この場で始末するのかという意味で、やるのかと聞いたつもりだったが、アルトスは猿ぐつわを噛ませただけだった。確かに、殺されるよりもフォースとリディアの仲を見せつけられる方が、今のオルニには辛いことなのかもしれないとジェイストークは思った。
 アルトスは馬車の窓から顔を出し、御者の方を向く。

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