レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 6
「正門からルジェナ城へ」
はい、と返事が聞こえ、馬車は街を左に曲がった。
***
「どうしてこんな馬車をここに」
前庭まで入れた馬車に近づいてきたのは、庭に散歩に出ているリディアの護衛、イージスだ。
「オルニとノルドが乗っている」
アルトスが不審げなイージスにそれだけを伝えた。イージスは、はい、と笑みを見せ、前輪を確かめる振りをしている御者に目をやってから離れていく。名前を出しただけで、すべて通じたようだ。
「点検したら、すぐに出るそうです」
イージスがフォースと一緒にいるリディアに、そう伝えている。フォースは何の馬車か察しているらしく、わざわざリディアと一緒に側に来て、馬のいる前方へと歩いていった。
「鳥を見に行かれますか?」
イージスが、そう話を切り出すのが聞こえる。いいえ、とリディアの声がした。
「ありがとう。でもしばらくはやめておくわ。たくさん歩くかもしれないし、馬車に乗ったりしたら、おなかの赤ちゃんが驚いちゃうもの」
思わずオルニの顔を見ると、よほど驚いたのか、猿ぐつわの上下から口が見えるほど大口を開けていた。
「そういえばあの時、俺の部屋に来てくれてよかったよ」
「あの時?」
「リディアが鳥を見に行くって誘われて」
「あ。あの、なんとかって人?」
そうそう、とフォースが返事をする。
「だって、一人だとつまらないでしょう? フォースがいてくれないと」
その言葉に、アルトスがオルニに視線を向けた。
「お前は数のうちに入らないらしいな」
オルニは、一瞬目を丸くすると暴れ出した。アルトスは後ろからしっかり抱え込み、オルニの口をふさいでいる。
「疲れないか?」
「大丈夫よ」
二人の声が馬車の横を通り、城へと向かっていく。
「疲れたら言えよ。抱っこしてやるから」
「ええ」
アルトスは、ムームー言いながら暴れているオルニの顔を、馬車の窓に向けた。腕を組んだフォースとリディアが、顔を寄せるのが見える。
いくら暴れたところで、アルトスの腕から逃げることはできないし、二人がキスをやめるなんてこともない。
オルニは目をつぶったような気がするが、まだそれほど離れていないせいか、チュッとキスをする音が聞こえた。
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