レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 7


「そろそろ戻ろうか」
「もう少しいたいわ。赤ちゃんがいても普通に過ごした方がいいって、タスリルさんが言ってたの。無理は駄目だけどって」
「じゃあ」
 フォースに不意に抱き上げられ、リディアが、きゃ、と声を上げた。リディアは楽しそうに笑い声を立てる。
「フォース、私まだ疲れてないわよ?」
「予防だよ」
「これだと散歩じゃないわね。でも、嬉しい」
「それなら、このままどこまでも」
 リディアがキスをせがみ、応えるフォースを見ているうち、縮んでいるのではないかと思うほど、オルニが背を丸めて小さくなっていった。アルトスの腕が解かれても、シュンとしたまま動かない。
「いつまでも抱いていて。フォースがお爺さんになっても」
「了解。年寄りになったら鍛えてでも」
「お墓に入る時もよ?」
「当然。骨になっても離さない」
「誰のお墓だか分からなくなって発掘されちゃったら?」
「ええ? ……、そうだな、二人を引き離したら呪ってやるとか。遺言を一緒に入れておこう」
「それ、いいわね。タスリルさんに相談してみようかしら」
「俺の怨念は自前ので足りるよ」
 そしてまた笑い声が聞こえる。オルニは死んだようになっているが、ジェイストークにとって仲むつまじい二人の姿は、自分自身の幸せにも思えた。
 フォースとリディアが城内に入っていくのを見て、アルトスが窓から顔を出す。
「ラジェス港へ行ってくれ」
 肩を落としたオルニは黙ったまま鉄格子の中に戻り、それから一言も話さなかった。

   ***

「黙っていても処分してくれると思ってたよ」
 フォースはソファに座ったまま、苦笑を浮かべてジェイストークを見上げた。オルニとノルドに処罰を与えたと伝えた返事がこれだ。リディアが休んだ後のフォースの寝室には、他にアルトスが残っていた。
 二人の仲むつまじい姿に落ち込んでいくオルニを思い出し、ジェイストークはフォースに笑みを向けた。
「サッサと思う通りになさればよろしかったですのに」
「その場で極刑にしてしまいそうだったから、任せようと思ったんだ」
「極刑でかまわん」
 あそこまでやっておいて、アルトスにはまだ足りないのか、不機嫌そうな表情は変わっていない。

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