レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 8


「いや、リディアの具合が悪い時に、いきなり目の前で斬り捨てるワケにはいかなかったしな。それにリディアなら間違いなく、ほんの少し前に一緒だった人が自分のせいで、という考え方をする」
 やはりそれであの措置なのだと、ジェイストークは納得した。
「それにしても、子供ができたらできたで教えて欲しいモノだが」
 アルトスの冷たい声に、フォースがため息をつく。
「それが、まだひどく小さいらしくて。薬師が分かるくらいになるまでは、駄目になることも多いそうなんだ。もしも話しが立ち消えなんてことになったら、リディアが傷つくだろう? タスリルさんから許しが出るまでは、言いふらさないで欲しいんだ」
「分かった」
 アルトスがあまりにも簡単に返した言葉に、フォースは苦笑している。リディアのことになると、とたんに物分かりがよくなるアルトスに、あきれているのか感心しているのか。だがジェイストークには、両方の気持ちが手に取るように理解できた。
「ところで、楽園ってのは何なんだ?」
 フォースの問いにアルトスは、知らないのかとばかりに眉を寄せる。
「ラジェスの港の西方、二つ並んだ島の片方に監獄を建て、もう片方はそのまま手つかずになっている。軍部では、その手つかずの島を楽園と呼ぶ」
 あの島か、と地図を思い浮かべたのか、フォースがうなずいた。
「監獄から見れば楽園に見えるのですよ。食料を調達する生活が続くので、監獄に逃げ込みたくなるそうですが、監獄の島はまわりが石壁なので入れないんです」
 話しを継いだジェイストークに、フォースが疑問の目を向ける。
「手付かずってことは、何もないし誰もいない?」
「ええ、無人島です。もう思い込もうにも相手がいませんから、あそこにいる間はオルニも人畜無害でしょう」
 フォースは真面目な顔のままブッと吹き出し、そりゃそうだろうな、とつぶやいている。
 これからオルニとノルドは、生活のすべてを自分でまかなうことになる。オルニには身の程を知ってもらい、ノルドには兄を盲信することの怖さを知ってもらうのだ。
「もし、温情をおかけになるのでしたら、その時に言ってくだされば迎えに行きますよ。レイクス様がいらっしゃる前でしたら間違いなく極刑でしたから、このまま忘れてくださってかまいませんが」
 ジェイストークが言葉を向けると、フォースはため息混じりの声を出す。
「さぁて、どうしたものかな。リディアが思い出すようなことがあったら迎えを頼むかもしれないけど、忙しくなりそうだし」
「忙しくなって欲しいモノだな」
 無表情にうなずいたアルトスに、ジェイストークは同調した。

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