レイシャルメモリー後刻
第13話 その輝きは永遠に 5


   ***

 あくる日、朝のこと。
「捕まえたんですね」
 安心感から息をついたグレイに、バックスが大きくうなずいた。
「薬師ってのは思ったよりも連携が取れているんだな。術師街で話しが広まったと思ったら、居そうな場所ってのが上がってきて、その辺りで聞き込んだら当たりだ」
 バックスはかすかに口元を歪ませる。
「被害にあったのは妖精だから遺体もない。一件落着なんだが、後味は悪いな」
 罪のない一つの命が失われてしまったのだ、スッキリ終われないのは仕方がないだろう。そう思いながら、グレイはバックスにうなずいて見せた。
 それよりも、問題はヤーラの霊だとグレイは思う。取り憑くほどの恨みではないと言っていたし、捕まっただけなのだから、まだ幽霊のままかもしれない。それとも、あれから未練を見つけて、シャイア神の元へ行けただろうか。
「さて、帰って掃除を手伝うか」
 バックスはそう言ってニヤッと笑った。
「今夜フォースを泊めるしな」
「タスリルさんの店に泊まるって言ってたのを誘ったんでしたっけ?」
「そう、娘を抱かせてやろうと思ってな。フォースの子供が男の子だったら玉の輿だ」
「それ、色々気が早すぎですって」
 グレイの言葉を聞いて、バックスは朗笑する。
「だが嫁にはやらん」
 ちょっと前に玉の輿と言っただろうと思いつつ、ライザナルの王子が婿入りする図式が頭に浮かび、グレイは苦笑した。
「俺はあとで店の方に行ってみますよ」
「じゃあ、楽しみにしてるって伝えといてくれ」
 そう一言残し、バックスは手を振って神殿を出ていく。楽しみにしてるなんて伝えたら、フォースに拒否反応が出るのではないかと思いながら、グレイはバックスに手を振り返して見送った。
 バックスとのやりとりで、グレイの気持ちはいくらか復活した。だが、殺された妖精の霊が気になるのは少しも変わらない。グレイは、もしまだヤーラがいるのなら様子だけでも見てみようと、懺悔室へ足を向けた。
 気持ちを落ち着けるため、知らず知らずのうちに小さく息をついてから、グレイは懺悔室のドアを開けた。小窓にヤーラの顔がのぞき、手まで振ってくる。
「あの薬師、捕まったのね」
「知ってたんですか」
「さっき聞いたわ。あなたの隣で」
 ヤーラの言葉に、グレイは思わず言葉を詰まらせた。
「ちょっとはホッとしたのだけど、やっぱりシャイア様はお迎えに来てくださらないみたい」

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