レイシャルメモリー後刻
第13話 その輝きは永遠に 12
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「さっきの人、ライザナルの皇太子じゃない?」
懺悔室に入るなり、ヤーラがそう口にした。
「そうですよ」
「それなのに荷造りだなんて。それもあんなに一生懸命に」
楽しそうに笑みを浮かべたヤーラに、グレイは微笑を返した。
「そういう奴だから」
「そういえばね、あの人の命令で騎士や兵士が道の脇の木を切ったらしいんだけど、ちゃんとドリアードのいる木は残してあるのよね。人間のくせに面白いわ」
「うん、それも色々あってね。あいつはそういう奴なんだ」
グレイが浮かべている控えめな笑みを、ヤーラは小窓からじっとのぞき込んでくる。
「何?」
グレイがたずねると、ヤーラは頬をゆるめて大きく息をついた。
「そういう奴、親友なのね。よかった」
「よかったって、何を疑ってたんだよ」
ヤーラはその言葉に目を見開くと、含み笑いをする。その笑顔を、グレイは口をつぐんだままで見ていた。笑わないグレイに、ヤーラはうかがうような表情を向けてくる。グレイはため息をついた。
「俺のフォースに対する気持ちを見たのなら、他の気持ちも見えたんじゃない?」
「え? 見ようと思ったところしか見えないわ?」
ヤーラは疑わしげに顔をしかめ、ハッとしたように小窓から顔を引っ込める。
「やだ、見ちゃったじゃない。まだ一日も経ってないのに、もう私じゃ駄目って決めちゃったの?」
ヤーラの暗い声にグレイは、納得させて突き放す、という言葉を心の中で繰り返した。少しでも甘かったら、きっとヤーラに後悔を残してしまう。
「最初にヤーラを見た時、可愛いって言っただろ。こんな恋人がいたらいいなと思ったんだ。でも、生きている間ずっと付きまとわれるのはごめんだし、ヤーラと逝くとあいつらと顔を合わせられなくなってしまう。それは俺にとって、とてつもなく大きな損害で」
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