レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 5
行き先が慣れたメナウルだとはいえ、レイサルトを一人で出したのは、急な決定だった。自分と同じようにリディアも、レイサルトが無事に帰ってきて、その顔を見るまでは心配だろうと思う。
神の守護者と呼ばれる種族の者が、初めて来ているのも、間違いなく不安材料になっている。何を話しに来たのかは、まだまったく分からないし、ラバミスの滞在はメナウル行きを承知した上でのことだ。面倒な話しをするから、長期に及ぶと考えている可能性もある。とにかく、世間話でないのは明らかだ。それが何であれ、リディアも家族も、そして国も、守らなくてはならない。
腕の中で、リディアが小さく息をついた。苦笑して見上げてくる唇にキスをして、フォースは腕に力を込める。
「なにも心配いらない」
それだけ言うと、リディアはゆっくり大きくうなずいた。琥珀色の髪が光をはらんで揺れる。その髪を梳くように撫でると、リディアはかすかな笑い声を漏らした。
フォースが腕をゆるめて顔をのぞき込むと、リディアは柔らかな笑顔で見上げてきた。状況が何一つ変わったわけではない。ただ、信じてくれているのだとフォースは思った。
「お茶を淹れるわ」
その言葉にフォースが笑みを返すと、リディアはすぐ側で小さく手を振り、台所へと入っていく。フォースはお茶の用意を始めたリディアをのぞきながら通り過ぎ、南に向いている窓の前に立った。
この城から初めて見下ろした時よりも、マクラーンの街は広くなっている。今では街の外壁は形だけのモノになった。その外側にも溢れるように人家や商店が建ち並んでいる。そして街全体には、術師街ですら明るくなったと思えるほどの活気もある。それを感じるにつけ、自分のやり方は間違えていない、とフォースは自信を持って思えた
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