レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 6


 この繁栄は、ペスターデの功績が大きい。フォースがマクラーンへと移り住んだ十年前に、ペスターデもジェイストークと一緒にマクラーンへ戻った。ペスターデが現地で進めた寒さに強い作物を作る努力は、収穫増加と後継者の輩出という、二つの方向に実を結んだのだ。ペスターデが亡くなった現在も畑は北方に広がりを見せ、さらにその地で研究が進められている。
 結果、少しずつだがライザナルの国力は上がり続けている。マクヴァルを倒してすぐの頃は、自国のことだけで精一杯だった。だが今なら他国とも、いい関係を築けていけるのではないかとフォースは思う。
 ジェイストークによると、ラバミスは三十代半ば、だいたいフォースと同じくらいの歳だという。背の高さもあまり変わらず、ただひどく細身なのだそうだ。そこを強調したジェイストークの話し様は、暮らしが楽じゃなさそうだと暗に伝えたかったからだろうと、フォースは感じていた。
 ディーヴァは山なだけに高地で気温も低い。種族の者たちがどの辺りに住んでいるかは分からないが、そこで育つ作物とその苗を分けることくらいなら、造作無いだろう。
 テーブルにお茶が置かれる音で、フォースは振り返った。それに気付いたリディアはニッコリ微笑んで立ち上がり、フォースの方へと歩みを進めてくる。フォースの差し出した手に、リディアが腕を絡めた。視線が街とその向こうにある森との境界あたりに向く。フォースも同じ方向に目をやった。
 レイサルトはマクラーンの街を抜け、メナウルへと続く街道に入った頃だ。今回の旅で、やってきて欲しいことはいくつかある。サーディと会って契約の更新をすること。シェダとミレーヌのマクラーンへの引っ越しを進めること。今回会えるはずだった人たちに、元気でいると伝えてもらうこと。
「レイ、楽しんでこられるといいわね」
 ああ、とだけ返して、フォースはリディアの腰に腕を回した。二人で微笑みを交わし、視界に入ったお茶に目をやる。同じ動きをしたことが可笑しくて微笑み合うと、フォースはリディアの腰を抱いたままテーブルへと歩き出した。

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