レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 8
先にアルトスに話しかけられ、レイサルトはバツの悪い思いをした。だが、言いそびれてそのままになるよりは、いい機会に違いない。ハッキリ聞いてしまおうとレイサルトは口を開いた。
「父を訪ねてきたのは、誰なんです? 父が迷うことなくメナウル行きを取り消すなんて、一体」
「ラバミスとおっしゃる方です」
即答で名前が返ってきた。だが、その名前に聞き覚えはない。
「どういう方ですか?」
今度は一瞬間があった。
「神の守護者と呼ばれる種族の方です」
それがどういう人間なのか、レイサルトが理解するまでに、少しの時間が必要だった。自分の顔がこわばるのが分かる。
自分と同じ紺色の瞳を持つという、神の守護者。生け贄を捧げた見返りに神と話し、神の力を使って神を守ってきたという種族だ。ディーヴァ山脈のシアネル側に住んでいるらしいが、その場所は依然分かっていない。
ただ、その暮らしは激変しているはずだった。フォースがマクヴァルからシェイド神を解放して以来、神が降臨をやめたのだ。神の守護者が使っていた神の力も、アルテーリアから無くなった。時代の流れが大きく変わったのだ。
それと共に、それぞれの神が所有する土地としての国境が曖昧になった。人の意志が国境を定めている状態になり、今、国境を保つためには、繊細な均衡を図る努力が必要だ。
それともう一つ、一年を通して穏やかだった気候に、大きな移り変わりができた。季節の変化が激しくなったのだ。
先手を打っていたライザナルと、ライザナルに追随したメナウルでさえ、作物の収穫量が一時期落ち込んだ。ライザナルとメナウルはほんの数年で立て直し、安定もしたが、ディーヴァやシアネル、パドヴァルなど、人口の少ない他国の情勢は不気味なほど伝わってこなかった。
それなのに、十年以上経った今、神の守護者が訪れたのだ。何か問題があったのかもしれない。そうでなくても、今まで霧に包まれていた種族の実態や、ディーヴァとシアネルあたりの情勢が明らかになる。ライザナル皇帝であるフォースが、直に会わないわけにはいかないだろう。
レイサルトは、父方の祖母であるエレンという人が、その神の守護者の一人だと聞いていた。フォースが持っているサーペントエッグにある細密肖像画を見せてもらったが、確かに祖母は紺色の目を持って描かれていた。
そしてフォースは種族と一般人の間に生まれた戦士と呼ばれる立場で、レイサルト自身も瞳の紺色を受け継いでいる。無関係とは言い難かった。
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