レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 10


   ***

 ジェイストークが選んだ部屋は、フォースがいつも使っている執務室と同じ広さの部屋だった。後から行くので待っていてもらうようにとラバミスに伝えてあったが、フォースはラバミスより先にその部屋に入った。
 いきなり対等に話しをするつもりはないので、向かい合ったソファーを通り過ぎ、奥に置いてある机の椅子に腰掛ける。フォースは分厚い本を机に置いて、適当に真ん中あたりを開いた。
 当然、読んではいない。ラバミスに、フォースの読書を中断させるのだという負い目を感じてもらうためだ。その負担を感じないようであれば、逆にフォースも気を使わずにすむ相手だと分かる。もうじき来るはずの気配を感じ取ろうと、意識はドアの外側に向けていた。
 はたして、二人分の足音が近づいてきた。部屋の外に立っている騎士の鎧が、敬礼をしたのだろう金属音を立てる。ご苦労様、と言ったジェイストークの声が聞こえた。
 ドアに三度、ノックの音がした。入れ、と答え、フォースはドアを見ていたその目を、並んでいる文字に落とす。
「失礼いたします」
 ドアが開いて、二人が入ってきたのを視界の隅で捉えてから、フォースはようやく顔を上げた。幾分顔を引きつらせたラバミスだろう男と目が合う。確かに同じくらいの歳、背丈に見えるが、非常に細身だ。髪はこざっぱりと切ってあるが、服装は街の人間よりも、いくらかくたびれて見える。
 そして、当たり前なのだがその目は紺色をしている。第一王子のレイサルトは同じ紺色だが、第二、第三王子のレンシオンとレファシオ、王女のリヴィールは茶系だった。そのため、自分以外に目にしたのは、母とレイサルトとラバミス、まだ三人だけだ。実体では見たことのない種族の人間も、一人いたことはいたのだが。
「ディーヴァからおいでになった、ラバミス様にございます」

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