レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 12


「しかし、……」
 返す言葉が見つからなかったのだろう、ラバミスは口をつぐんだ。だが、ハッとしたように顔を上げる。
「都合よく思われても、仕方がないのかもしれない。だが、サピロス祖父さんとは話さなかったのか?」
「サピロス?」
 フォースが聞き返すと、ラバミスは一度大きくうなずき、しっかりと視線を合わせてくる。
「十七、八年ほど前だったか、マクラーンに来たはずだ。会って話しを聞いたのでは?」
 祖父さんと呼ばれるだろう風貌なら、フォースは確かに見たことがあった。石でできた小さな部屋で黒曜石の鏡を割った時、その欠片から立ちのぼった魂だ。会って話しを聞いたとは言いがたい。
「思い当たったようだな。聞いていないとは言わせないぞ」
 フォースの考えていることを見透かしたのだろう、ラバミスはフォースの顔をのぞき込んできた。
「多分そうだと思っただけだ。俺が会った時は、既に亡くなっていた。名前も知らない。話を聞けたのも、一言二言だ」
 フォースの答えを聞いて、ラバミスは眉を寄せる。
「亡くなっていたら話を聞けるわけがないだろう。気味の悪いことを」
「なんと言われても、実際そうなんだ、種族の人間が呪術で封印されていた。その黒曜石の鏡を割った時、立ちのぼった魂に声を掛けられた。白髪で白い髭を蓄え、シェイド神の解放を望み、俺を子孫と呼んだ」
 その言葉を、ラバミスはあっけにとられて聞いていた。サピロス祖父さんだ、と弱々しくつぶやき、肩を落とす。
「生きて、……、会えなかったのか」
「だが、指針は与えてもらった。感謝している」

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