レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 15
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馬車に一人で乗っているという状況は、レイサルトにとって一息つける貴重な時間だった。進行方向を向いて座り、窓から外を見つめる。
馬車はルジェナ城の敷地内に入ったところだ。城壁の内側だが、郊外の風景と変わりなく、豊かな緑が広がり川が流れている。レイサルトが生まれてから五歳までの間に住んでいた城であり、とても懐かしく、安心できる場所だ。
フォースが飼っていたファルの子孫、コルが運んできた手紙によると、両親のフォースとリディア、ラバミスという客人は、五日分ほど後ろをこのルジェナに向けて移動中らしい。レイサルトはまっすぐメナウルに入るが、後から来る三人はここから東へ移動し、神と話せる位置までディーヴァの山に登る予定だと聞いた。
種族の村まで行くのだとしたら、是非とも行ってみたかったとレイサルトは思う。正確には四分の一だが、自分の起源はそこにもあるのだ。種族への感情は、ここルジェナを故郷と懐かしんで思いを馳せるのと、少し似ているような気がする。
そう思うとレイサルトは、なおさら行けないことが悔しくなってきた。今回は駄目でも、いつか行ってやると心に決める。
二つめの城門をくぐって湖の上を渡り、三つ目の城門に入る。花々の植えられた花壇を通り過ぎ、四つめの城門を超えて、ようやくルジェナ城が目に入ってきた。
城正面の出入り口にはレクタードとスティア、その娘のマルジュとフェネスが立っているのが見える。マルジュは上の弟レンシオンと同じ十三歳、フェネスはマルジュの二歳下になる。二人ともフリルがたっぷりの可愛らしいドレスを身に着けていた。自分の家族よりも、着ているモノが派手だなと言う思いが頭をよぎる。
レクタード一家の前まで進むと、馬車は動きを止めた。アルトスの手によってドアが開けられ、レイサルトは馬車を降り、レクタードの前に立つ。
「叔父上、お久しぶりです」
レイサルトの挨拶に、レクタードはていねいなお辞儀をした。それは、レイサルトの両親が隣に立っている時と、微塵も変わりないものだ。レイサルトは、このレクタードよりも地位が上なのだと再確認した気がした。中身が伴っていないという思いが胸に痛い。
「明日朝までの滞在です。よろしくお願いします」
レイサルトがそう言い足すと、レクタードのもう一度同じようなお辞儀と、儀礼的な笑みが返ってきた。
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