レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 19


 確かにそれは、非常に有効な手だとレイサルトは思う。でも、そういう人を見つけなくてはならないという、とんでもなく難しい障害が残っている。レイサルトは頭を抱えたくなる気持ちを抑え、苦笑にとどめた。
「そうそう、お嫁さん候補は挙がってるの?」
「は? 何も聞いていませんが」
 レイサルトは驚いてそう返したが、返されたスティアも驚いたらしく、目を丸くしている。
「ええ? まだ何も? ホントに?」
 はい、と返事をしつつ、本当にそんな話しがされているのだろうかと、レイサルトは不安になってきた。
「ねぇ? ライザナルって、そういうところは、うるさくないの?」
 スティアがレクタードを振り向く。レクタードは、そうだなぁ、と考え込みながら、手にしていたカップを机においた。
「逆じゃないかな。変な女が寄ってこないように監視をされるとか、面倒があったら言えとか」
「あなたも甘やかされてたんじゃない」
「まぁ、それはそうだ。私だけ甘やかされていなかったら、いくら何でもグレるよ? フォースが戻ったのが親が面倒になったくらいの時期だったから、私はむしろありがたかったんだが」
「じゃあ、フォースはその親が面倒な時期真っ最中に、あの勢いで干渉されまくったのね?」
「そう。大変だったと思うよ」
 夫婦で話が弾んでいるのを聞きながら、レイサルトはその娘のマルジュとフェネスに目を向けた。二人がキョトンとして両親を見ていた視線がこっちを向く。親が甘やかされていたなんて事を、二人も初めて聞いたのだろう。微笑んで見せると、姉のマルジュは顔を赤くしてうつむき、妹のフェネスからは満面の笑みが返ってきた。
「兄のところのファリーナはどうかしらね?」
「は? 何がですか?」
 レイサルトがスティアに問いを向けられて慌てて聞き返すと、しかし、とレクタードが口を挟んでくる。
「フォースは国外からの皇帝だからね。レイはむしろライザナルの女性と結婚して欲しいんだが」
 なんだ結婚相手の話しか、と軽く見る気持ちと、なぜいきなり結婚相手か、という疑問が頭の中でグチャグチャしている。笑って誤魔化すしかなかった。
「あら、笑い事じゃないのよ?」
 スティアはそう言いながら笑っているので、まったく説得力がない。でも、そろそろそういう時期だということを意識しろと言われている気がした。

20へ


前へ シリーズ目次 TOP