レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 20


 ふとレイサルトの視線の端に、アルトスがドアを細く開け、廊下にいる人の話を聞いているだろう姿が見えた。思わず首を巡らすと、それに気付いたスティアがサッと立ち上がり、アルトスの側に行く。
「甲冑を届けに来たとのことですが」
 向き直ったアルトスに、スティアは笑みを浮かべている。
「ここに運んでもらって。フォースが来るまで飾っておくわ」
 フォースの名が出てきて、レイサルトはアルトスと視線を交わした。スティアは小さく笑い声を立てる。
「表向き儀礼用の甲冑よ」
「表向き、ですか? 儀礼用とは違うんですか?」
「頼んだのは儀礼用なのだけど。ワーズウェルさんが、フォースが着るなら手は抜かないって言ってたのよ」
 レイサルトはその名前を知っていた。自分が剣の練習をするための鎧が、ワーズウェルの作ったモノなのだ。フォースがウェルさんと呼んでいた、わりと大きな体つきの老人が頭に浮かぶ。
 降臨が無くなって以来、メナウルは気温が上がったので、革製の鎧が多くなり、金属製の甲冑は需要が減ったらしい。ワーズウェルは、それで工房をルジェナまで北に移したと言っていた。
 部屋に運び込まれてきた甲冑は二つで、頭の先から足先まで揃ったモノと、半甲冑だった。どちらも地が紺色に輝き、細かな金色の細工が施されている。だが、誇張されている部分などは一切無く、とても機能的に見える。派手派手しく飾り立てた甲冑より、よほど美しいとレイサルトは思った。
 自分がポカンと口を開けて見ていたことに気付き、レイサルトは慌てて手で口を押さえた。だが、レクタードもスティアも黙ったまま見とれている。
「とっても綺麗ね」
 そう声を出したのは妹姫のフェネスだ。マルジュはその横で、何度もうなずいている。子供らしく正直な感動が見えて可愛らしい。
 持ってきたのはワーズウェル本人ではなかったが、甲冑を大事そうに飾っていく手を見ていて、この人も作る人なのだと感じた。もしかしたらワーズウェルの跡継ぎなのかもしれない。
 この甲冑は、父には似合うに違いないとレイサルトは思う。いつも迷うことなく真っ直ぐ前に目を向け、毅然とした態度で事に当たっていく人だ。レイサルトは跡継ぎとして、自分がこの職人と同じだけのことができているだろうかと疑問に思う。
 職人は甲冑を飾り終わると、深々と礼をして部屋を出て行った。レクタードはそれを見て全身を包む甲冑の前に立つ。その隣にスティアが進み、顔を隠す部分、面頬を上げた。レイサルトは、ぽっかりと空いたそこに、フォースの顔が見えた気がした。

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