レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 22
「村の位置も、供物台の位置も聞いた」
「あ、じゃあ、一応逃走経路も練っておきますね」
「頼む」
シャイア神に追われるようなことがあったら、逃げ切るなんて無理なのかもしれない。だからこそ今回、なにもしないでいるわけにはいかなかったのだが。
シャイア神が会わせろと言っているのはリディアだ。神が自ら手を離した人間に、今さら何を求めるのか。人間を育てたことへの恩返しをしろと言われる筋合いはないが、最後に残す一言を聞けというなら、聞いてやってもいいと思うのだ。
大きく見て、神が親で人間が子だと当てはめて考えていたせいか、フォースにはシャイア神の要求が無理難題には思えなかった。もしもリディアに理不尽な要求をするなら、残っている関係も、すべて断ち切るつもりでいる。神を相手に、それができるかどうかは分からないのだが。
先に立って歩いているフォースに、ブラッドが後ろから声を掛けてくる。
「例の、着るんでしょう? 半甲冑なら山を登るにも、ちょうどいいですし」
幾分笑いが混ざったような楽しげな声に、フォースは顔をしかめて一瞬だけ振り返った。
「脅しやハッタリにしか見えないだろ」
歩を進めながら、ゴートで階段から落ちて死んだセンガに言われた言葉を思い出し、フォースはそのまま口にした。
「その台詞どこかで……。あ、いえ、もしそうだとしても、ライザナルの皇帝なんですから、普段からあれくらいの物を着けていてもおかしくないです」
「甲冑だぞ? おかしいよ」
「そうじゃなくてですね。あのくらい飾りが付いていても、という意味です」
確かに、クロフォードやディエントが着るなら、装飾がある甲冑の方がしっくりくるだろうとフォースは思う。自分がそこまでなれているかと問われれば、首を縦には振れない。
だが、普通の甲冑には、身を守る以外に意味は無い。危ないから甲冑を着けていると思われるよりは、儀礼用に着けていると思われた方が、まだ種族の者たちに敵意を感じられなくて済むだろう。
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