レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 23


「数人は一緒に行動できますし、最低限の軍も一緒に行動しますが、いくら武器を持たない種族でも、ウェルさんの甲冑を着けて帯剣してくださった方が断然安心です。それに、陛下はあの種族にとって戦士なんですから、普段着が甲冑でも違和感は無いと思いますよ?」
 ブラッドの言葉に、思わず噴き出しそうになる。
「普段着って。違和感が無いわけないだろ。着けた方が安全だからそうしろって、最初から言ってくれればいいのに」
 フォースがそう返すと、ブラッドは照れ隠しのように冷めた笑い声を立てた。つられて笑みを浮かべながら、リディアが待っている用意されていた部屋のドアを開ける。
「フォース」
 にこやかな笑みを向けてきたリディアは、靴が見えるくらいの少し丈が短めな服を着ている。そしてその手には、装飾の付いた半甲冑の一部があった。
「手伝うわね」
 その問答無用な雰囲気にノドの奥で笑うと、フォースはリディアの側に立った。
「似合うと思うのよ」
「だといい」
 後ろで笑いを殺しているブラッドの気配が気に障る。フォースはその笑みを冷視してから、あらためてリディアと向き合い、半甲冑を受け取る。
 今までの儀礼用甲冑はライザナルの宝飾職人が作っていたので、メナウルの宝飾の鎧と同じように見た目が非常に派手で、着け心地も良くなかった。だがワーズウェルは元々が鎧職人のため、騎士だった頃に着ていた鎧と違わず、動きの制限が最小限に押さえられている。その上、焼きで付けられたという紺色は落ち着きがあり、控えめな金色の細工が上品に浮かんでいた。
「失礼するよ」
 入室してきたレクタードの声に、フォースは向き合った。レクタードはフォースの格好を見てわずかに笑みを浮かべたが、すぐに元の表情に戻る。
「どこを行動しているか、まめに連絡を頼むよ。同じ心配するにも、場所が分かっているだけマシだ」
 フォースは、ああ、とうなずいて見せた。レクタードもうなずき返し、再び口を開く。
「こちらも予想外のことがあれば連絡を入れるよ」

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