レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 24


「了解。まぁ予定通り、基本的なことは全部任せる。それと、レイのことも頼むよ。もし先に戻ることがあったら知らせて欲しいんだ」
 フォースの言葉に、分かった、と返し、レクタードは軽く三回うなずいて微笑んだ。
「馬も繋ぎ終えたよ。苗や作物を積んだ馬車のは、力のある馬を揃えてある」

 馬車を降りた地点は、冷えた空気が呼吸ごとに体温を奪っていくのが分かるほど、すでに結構な高地だった。
 馬車と一つの隊を残して山道に入った。木々がうっそうと茂った獣道のような場所を通り抜け、幾分平された道に出る。険しいと言うほどでもないが、歩きやすいと言うほど平坦な道でもない。
 フォースはリディアの腰を支えるように腕を回し、ナルエスの背を見ながら歩を進めていた。ナルエスの前には道案内のために先頭を歩くラバミスがいる。フォースの後ろには世話係としてソーンが付き従い、さらに後ろにはアジルとブラッド、他に小隊が付いていた。そして、見失わないだろうギリギリの距離をあけ、街の外で待機するための、二つ分の隊が続いている。
「余生とかご隠居とか言ってくれるな。農業はいいぞ。植物が育っていくのを見るのは楽しい」
 アジルの声が山側に響く。
「それが何でここに参加してるんだ?」
 右側にいるのだろうブラッドの声は、山裾の方向に流れている。アジルとブラッドは二人揃えておくと何かと話し続ける習性があるらしい。フォースは話しに混ざらないよう、反応を返さずに聞いていた。
「お偉い騎士が多いと緊張感ばかり増すだろう。俺みたいなオヤジが混ざっているだけで、ちょっとは気楽に見えるってもんだ」
 兵役を退いたアジルが名乗りを上げて付いてきたのは、そういう気遣いがあったのかとフォースは感謝した。
「嫁は相変わらず元気なんだろ?」
「元気じゃないと、おかしいみたいだな」
 ブラッドがアジルの問いに笑いながら答える。
「ケティカも息子も元気だよ。ちょうどいいからルジェナに連れてきて、今はケティカの実家だ」
「じゃあ安心だな」
 アジルの言葉と同様、フォースも安心した。あとはブラッドに、そして付いて来てくれる人たちに、無事帰ってもらわなくてはならない。皇帝として国を補佐するために、必要な人員なのだ。自分たちだけが安全でも意味が無い。

25へ


前へ シリーズ目次 TOP