レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 25


 ふと、脇の茂みが揺れた。だが、音は立っていない。フォースは立ち止まり、その茂みを凝視した。
「どうしたの?」
 わけが分からず振り返ったリディアに、その茂みを見るように促して声を掛ける。
「出てこいよ。久しぶりだな」
「なぁんだ、バレちゃった」
 そう返事が返ってきたかと思うと、茂みの中から緑色の物体が大きく膨れあがった。腕だけ長いずんぐりした体型に、丸く開かれた目がこちらを向く。
「ティオなのね! あ……」
 リディアの視線の先、ティオの後ろからリーシャが飛び出した。ティオの肩に立って、ポンと頭に手を置く。
「じゃ、遊んでくるわ」
「うん。気を付けてね!」
 ティオの返事を聞くと、リーシャはリディアに冷笑を向けて空へと飛び立ち、風に掻き消えて見えなくなる。ティオはリーシャを追った視線をリディアに向けた。
「リディア、元気だった?」
「元気よ。ティオもリーシャも元気そうね」
「うん。こっちのみんなもね」
 リディアと笑い合っていたティオが、フォースに向き直る。
「俺、リディアを運ぶつもりで来たんだ。なんか、アジルもブラッドもいるから、一緒に歩いたのが懐かしくなってさ」
 その人員で歩いたのは、リディアが降臨を受け、シャイア神の言葉に従ってヴァレスへ向かった時だ。その時はラバミスとナルエスはいなかったのだが。
「ありがとう。頼むよ」
 ふと気付くと、ラバミスがナルエスの陰に隠れ、目を見開いてティオを見ている。見た目は怪物だ、無理もないとフォースは思う。だが、安心してもらわないと、道案内にもならない。フォースはラバミスに笑みを向けた。
「こいつはティオといって古い友人なんだ。何も心配はいらない」
「古くないよ」
 横からティオが口を挟んだ。フォースは苦笑する。
「人間にとっては古いんだよ」
 その言葉に、ティオがフォースに顔を寄せた。
「ホントだ。フォース、よく見ると大人になったみたいだ」
「は? 前に会った時には、すでに大人だっただろ」
「うん。それよりもっと大人だ」

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