レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 26


 フォースは会話するうちに、ティオは語彙が物凄く少ないことを思い出した。他の言い方が分からないのだ。これ以上言い争っても仕方がないので、フォースはティオに苦笑だけ返した。
 ラバミスを振り返ると目が合った。ラバミスは、ぎこちない笑みを浮かべる。
「先に進もう」
 フォースが声を掛けると、ラバミスは、ああ、とうなずいた。ティオは態勢を低くしてリディアを左肩に座らせ、左手でリディアを支えて立ち上がる。
「懐かしい眺めだわ」
 リディアの嬉しそうな様子に安心したのか、ラバミスはティオを気にしながらも、歩みを再開した。ティオのおかげで進みが少し早くなる。
「ブラッド、結婚できたんだね」
 フォースの後ろを歩くティオが、ブラッドに話しかけた。アジルが吹きだし、当のブラッドは冷笑している。
「なんだ、その言い方は。息子だっているんだぞ?」
「うん、知ってる。見たことがあるよ」
「うちに来たことがあるのか? 姿を見せてくれれば良かったのに」
「こっち側に来るのって、結構大変なんだよ? ディーヴァはシャイア様の力が少しあるから、ちょっとだけ楽だけど」
 ティオの言葉に、フォースの緊張が増した。やはりこの山にシャイア神の力が及んでいることは間違いないのだ。ティオの言う"ちょっとだけ"がどの程度かは分からないが、ティオがアルテーリアに来るのと、来るのをためらうのとでは、結果がまるきり違う。そこに差があるのは歴然としている。
「俺とリディアのところには、たまに顔を出してたじゃないか」
「うん。ちょっとだけ来やすいからね」
 試しに尋ねた答えに、また"ちょっとだけ"という言葉が混ざった。大雑把に同じ言葉を使ったのかもしれない。だが、もしかしたら同じように、未だリディアにシャイア神の力が及んでいる可能性があることにフォースは気付いた。
 ――リディア――
 かすかに届いた声にギクッとする。シャイア神の声だ。先頭を歩くラバミスが、フォースとリディアの反応を見たかったのだろう、歩みを止めて振り返った。フォースが冷笑を返してからリディアを見上げると、いつもの柔らかな笑顔を浮かべている。
「懐かしい声ね……」
 その顔には、特に恐怖心は見られなかった。フォースが、ああ、とうなずいて前方に視線を戻すと、ラバミスは硬い表情で肩をすくめ、再び村に向かって歩み始めた。

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