レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 27


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 ここ城都の城は、ライザナルの城に比べて慎ましやかで実用的だ。速度を落とした馬車から城を見上げ、今の両親が城を建てるなら、こんな感じになるのではないかとレイサルトは思った。
 レイサルトはヴァレスで、コルが運んできたフォースからの新しい手紙を受け取っていた。その中で、両親がライザナルに戻るまではメナウルに滞在するように、との指示を受けている。どういう理由があるのか書いておらず、まるきり想像が付かないので、ひどく気になる。そのため城都での用事を早いうちに済ませ、両親が戻ったとの知らせを聞いてすぐライザナルへ入れるよう、早くにヴァレスに戻り、滞在することを決めていた。
 城の正面入り口で完全に止まった馬車のドアが、アルトスの手によって開けられた。レイサルトは、視界に入ってきた祖父ルーフィスの顔に笑みを向ける。
「お久しぶりです。お元気そうで、なによりです」
 その言葉にルーフィスも笑みで目を細めると、レイサルトにうなずいて見せた。
「ああ。私も妻も元気だよ。今、ゴートに家を建てていてね」
「ゴートといえば、ヴォルタ湖の?」
「そう、湖畔の街だ。レイたちが来る次の機会には出来ているだろうから、遊びに来たらいい」
「ええ、ぜひ」
 笑顔を交わすと、ルーフィスは、また後で話そう、と、レイサルトの先に立って歩き始めた。アルトスの足音が、レイサルトの後ろに続く。
 謁見の間に移動する間、レイサルトは両親が来なかったことについて何か聞かれるのではないかとビクビクしていた。聞かれたら、包み隠さず話さなくてはならなくなる。今回のことを打ち明けることで、自分の不安が噴出してしまうかもしれない。みっともないことは、したくなかった。
 だがルーフィスは、そのことについては何も口にしなかった。世間話に交えて滞在日程の確認を取ったような会話を交わしただけだ。フォースとサーディとは、頻繁に鳥を使った手紙のやりとりがある。もしかしたらサーディ経由で、両親の話しを聞いたのかもしれなかった。
 だとしたら、尚更そのことについて話しをしたくないとレイサルトは思う。どれだけのことを伝えてあるのか分からないのだ。自分よりもサーディが知っていたら恥ずかしい。

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