レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 30
「ああ、イージスさんのことかな? 彼女は基本女性騎士の教官をしているし、今回は母が来なかったから来ていないんだけど。彼女に何か?」
「え? あの、私、憧れているんです。だって、とっても素敵じゃないですか。お会いしたかったわ」
ファリーナは、さも残念そうに肩を落とした。唇を少し尖らせているようにも見える。
レイサルトは、自分が小さかった頃にアルトスに憧れ、将来騎士になってみたいなどと考えていたことを思い出した。そんなことは、もちろん無理に決まっている。それが分かっていても、子供ながらに夢を見ていた。ファリーナの感情は、それと同じようなモノかもしれないとレイサルトは思う。
ファリーナは、しっかりしているようでも普通に十三歳なのだろう。まだまだ子供だし、結婚とは無縁そうな雰囲気にホッとした。
「次は、いつ頃いらっしゃるのですか?」
「どうだろうな。また次の年になるのかな」
「そうですか……」
ため息と共に瞳を伏せた姿は、まるで恋人に会えなくて落ち込んでいる姿のようで、レイサルトは何か言ってやらなくてはならないという気持ちになる。
「一年に一度ライザナル側が訪ねてくるだけじゃなく、メナウル側もライザナルに来てくれたらいいのにね」
レイサルトの言葉に、ファリーナは瞳を輝かせた。
「ええ、本当に。うかがえたら嬉しいです」
「両親の里帰りを兼ねてとか言うけど、メナウルだけで会うよりは交流も深まるはずだし、国民の感情も変わってくるだろうし」
ファリーナは、周りまで明るく見えるほどの笑顔をたたえ、何度もうなずく。そんなに会いたかったのかと思うと、イージスに対して恋愛感情を持っているようにすら感じてしまう。
ドアが早い調子で三度ノックされた。アルトスの合図だ。
「サーディ様にございます」
低い声が聞こえてから、ドアが開かれた。レイサルトは立ち上がってドアに向き直る。
「久しぶりだね」
サーディはいつもフォースにするように、その手を差し出してきた。かしこまって頭を下げつつ、レイサルトはその手を取る。
「ご家族は元気でいらっしゃるか?」
「はい。元気でおります」
サーディの優しげな笑顔に、再び大きくなった緊張が少しずつ解けていく。
「サーディ様も、お元気そうでなによりです」
サーディは楽しそうに笑い声を漏らすと、もう一方の手でレイサルトの手をポンポンと叩いた。
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