レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 31


「またずいぶん背が伸びたね。もうそういう歳か」
 サーディは含み笑いをして、チラッとファリーナを見やる。
「ずいぶん楽しそうだったが、いったい何の話しをしていたんだ?」
「はい。ライザナル側でメナウルにお邪魔するだけではなく、メナウルからもいらしてくださったら嬉しいと」
 レイサルトの話が予想と違ったのか、サーディは一瞬呆けたような表情をしてから頬をゆるめた。
「もしかしたら、君も初心者向けだったのかと思ったんだが」
「は? 何の話しですか?」
「いや、なんでもないよ。そうだね、こちらからうかがうのも悪くない」
 サーディはそう言ってうなずくと、ソファに手を向け、レイサルトに座るようにと促した。
「まぁ、今日はゆっくりしたまえ。契約の話は明日まとめて済ませよう」
 レイサルトは頭を下げてから、指し示されたソファに腰を落ち着ける。手招きされたファリーナはサーディの隣に座った。
 水や作物の輸入についての契約更新は、更新の度に同じ話を繰り返している。まとめてで話が済むというなら、特に変更も無いということなのだろうとレイサルトは安心した。
「ところで、やはり結婚の話が出ていたりするんだろうね?」
 突然の話に、ほんの数日前を思い出し、レイサルトは苦笑した。
「はい。一度だけですが」
「一度? それは少ないね」
 サーディはレイサルトの表情をうかがうようにニヤニヤとのぞき込んでくる。
「あ、まだ候補はいないのかと、スティア様に聞かれただけです」
 レイサルトの口から妹の名前を聞いたサーディの笑みが、冷めた笑いに変わった。
「なるほど、スティアなら言うだろう。その辺り、メナウルとライザナルとでは違うのかもしれないな。フォースなら無理に相手を探すようなことはしなさそうだし」
 サーディの話しを聞いていて、レイサルトはレクタードの話を思い出した。だが、変な女が寄ってこないように監視されるとか、面倒があったら言えとか、そんな話しをサーディにするのは、さすがにはばかられる。
 スティアを悪く言うわけにもいかず、レイサルトは苦笑を浮かべてごまかした。サーディは、そうかスティアか、と呟きつつ笑っている。

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