レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 34


 父のようにはなれないと宣告されたように聞こえ、レイサルトは必死でため息が出そうになるのをこらえた。その代わりに、サーディがため息をつく。
「だからこそ、君ならフォースを越える存在にも成り得るよ。羨ましいくらいだ」
「越える? 羨ましい、って……」
 自分で口にしてみた言葉も、レイサルトにはひどく幻想的に聞こえた。
「自信を持っていい。フォースと構造用材が違うというのは、むしろ利点だ」
 持っていいと言われて自信が持てるなら苦労はしない。だが、かつては同じ思いを持ち、現在は立派に皇帝を務めている人の言葉だ。レイサルトは、少しは信じてもいいのかもしれないと思えた。
「大丈夫、君はまた違った面から国を補佐する優れた指導者になっていけるはずだよ」
 この、国を補佐する、という言い回しで、レイサルトはフォースの真剣な目を思い出していた。フォースもよくそんな言い方をしているのだ。サーディとフォース、どちらが最初に言ったのかは分からない。だが、君臨するという言葉よりも、よほどしっくりくる気がする。
 フォースとサーディを見ていると、同じ方向に歩調を揃えることこそを大切にしているのが、レイサルトの目にも明らかだった。そう、自分が権力として上に立つ必要は無いのだ。国を補佐する立場になるのだとしたら、自分に絶対的な力があろうと無かろうと、あまり意味はないのかもしれないとレイサルトは思う。
 向き合うのではなく、同じ方向に進む。その意識の変化だけで、レイサルトの中にあった強迫観念は、不思議なほど薄れていった。
「君はフォースに似ているよ。そう、そのまっすぐ自分のやりたいことを追求していく所は特にだ」
 そう言うと、サーディはさも可笑しそうに笑う。その表情を見ていてレイサルトは、昔のフォースとサーディはどんな生活をしていたのかという興味が大きくなった。
「父が騎士だったというのが想像できなくて。不思議な気がします」
 レイサルトの言葉を意外だと思ったのか、サーディが少し目を見開く。
「何も聞いていないのかい?」
 はい、と返事をすると、サーディは軽く肩をすくめた。
「まぁ、フォースが話しても、苦労話にしかならないだろうからな。じゃあ今晩は、ゆっくり君の疑問を晴らすことにしよう」
 そう言いながらサーディが浮かべた笑みは、レイサルトの目にも、ひどく子供っぽく見えた。

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