レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 35


   *

 窓から見える中庭に、明るい朝の光が差し込んでいる。それを見たレイサルトは、急いで身支度を調え、机にあった一枚の紙を手に取り、ドアを薄く開けて廊下を見た。
「アルトス、いる?」
「おはようございます」
 ドアの影になっていたところから、アルトスが姿を現す。
「お早いですね」
 訝しげな顔をしたアルトスに、レイサルトは振り返らないまま、親指で後ろを指差して見せた。
「中庭に行ってみたくて。もう許可は得てあるんだ」
 レイサルトは、城内からの簡単な経路が書かれたメモを、アルトスに差し出す。
「承知いたしました」
 そのメモを受け取り、少し目を落としただけで、アルトスは先に立って歩き出した。
 この城は、増築を重ねて迷路のようになったマクラーン城とは違い、とても単純な作りをしている。アルトスは手にしたメモを気にする様子もなく、レイサルトがサーディに教わった道筋を、まっすぐに歩いていく。はたして、あまり時間をかけずに中庭までたどり着くことができた。
「ここにいてください」
 レイサルトはアルトスにそう言い置くと、中庭に一人で足を踏み入れた。
 マクラーン城の中庭に比べて、こぢんまりとしたそこは、三方を壁に囲まれた場所とは思えないほど陽が入って明るい。花壇は無く、数本の低木と、奥まったところに一本だけ、まだ細いが二階の窓に届きそうなほど生長し、枝葉を大きく広げた木が立っていた。
 レイサルトが背の高い木の横を通って上を見ると、大きめなバルコニーが目に入ってきた。ということは、サーディから聞いた両親が落ちた場所というのは、たぶんこの辺りなのだろう。その時植えられたという苗木が、ここまで大きくなるものなのかと感心して見上げる。

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