レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 36


 レイサルトは、その木の幹へと歩みを進めた。折れた木の代わりに植えられたのは、側で自生していた物だったという。その折れた木が残した子孫だろうとサーディは言っていた。
 レイサルトは、そっと幹に手のひらを当てて瞳を閉じた。表皮の乾いた感触と、ほんの少しひんやりとした温度に集中する。
「俺が今ここに存在しているのは、あなたの母君のおかげだそうです。ありがとう。……、いや、母君ではなくて、ご両親? なのかな?」
 何を言っているのかと自分で可笑しくなり、レイサルトは息で笑った。
 その刹那、日向の匂いが鼻先をくすぐった。思わず開けた目に、なびいた髪が見えた気がして、自然に視線が後を追う。だがそこには、誰の姿もなかった。
「レイサルト兄様!」
 後ろからの明るい声に振り返ると、メナウルの第一王子であるディロスが、敬礼を向けたアルトスの横を挨拶しながら通り抜け、駆け寄ってくるのが目に入った。結構な勢いなので、レイサルトはその場に立ったまま、ディロスが側まで来るのを待つ。
「普段通りに学校に行っているから、ほとんどお話しもできなくて」
 目の前に立ち、肩を弾ませながら言ったディロスに、レイサルトは苦笑を向ける。
「一応父の代わりだからかな。少しは話す時間が取れると思っていたんだけど」
 いつもなら、親同士が雑談しているのを横目に、レイサルトはディロスと色々な話をしていた。今回はそれが無かったため、寂しく感じたのだろうとレイサルトは思う。
「兄様、今日の午後には城都を出てしまうんでしょう?」
 側から見上げてくる真剣な瞳に、ああ、とうなずいてみせた。ディロスは大きなため息をつく。
「僕も学校に行かなくちゃならなくて。残念です。でも、ここから戻る間なら一緒にいてもいいですよね?」
「もちろん」
 そう返事をすると、ディロスはさも嬉しそうに、屈託のない笑みを浮かべた。

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