レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 38
***
ワーズウェルの作った半甲冑は、しっかりした作りながら軽く、山道を歩いているとは思えないほど、フォースにとって快適だった。
ティオがリディアを運ぶようになってから、進む速度が格段に増した。道はゴツゴツした岩場で一度消えたが、その道ざる道を進む時も、ティオにとっては平坦な道と変わりないようだった。その緑色の後ろ姿を見ていて、目にしていなかったここ数年で、ティオがいくらか大きくなっているようにフォースは感じた。
その岩場を結構な距離進んでから、道がまた復活した。大きな石混じりの道に戻っているが、岩場よりは進むのが楽だ。後ろにいる二つの隊と側近である一つの小隊は、間隔を変えることなく律儀に付いてきている。
いくつかの低い尾根を越えてきた。道の先は、今までで一番高さがあるだろうと思われる尾根に向かっている。ただ、さらにその向こうに尖った山の頂上が見え、ここから先に進むのはひどく困難だろうとフォースは思った。
先頭を歩くラバミスが、尾根に立った地点で振り返った。その顔が薄く微笑んでいるように見える。今度はなんの反応を見たいのかと憂慮しながら踏み出した足が、意志と離れて先を急く。
「村、なの?」
ラバミスの後ろで立ち止まったティオの上から、リディアのつぶやきが聞こえた。
ラバミスに並んだフォースの視界に、村の全景が飛び込んできた。足元の尾根を越えた先の低地と尖った山の間が、尾根を削り取ったような平らな土地になっており、そこを石で作られた人工的な建造物が覆い尽くしている。山を削って作ったのだとしたら、ひどく大掛かりだっただろう。
その眺望は、神殿を前にしているような荘厳さすら感じさせた。フォースは地図で見てだいたいの地形は把握していたが、ここまで作り込まれた村だとは考えていなかった。
まず、尖った山の麓にある広場に目を引かれた。丈の低い草で覆われた広場は、寒さのせいか、あまり元気の無さそうな緑をしている。だが、その広さと平坦さは、さながら小さな湖でも見ているようだ。
39へ