レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 39


 その広場を囲む観客席のように、石で組んで屋根を草木で覆った家々が軒を連ねている。その広さや戸数を考えると、千人ほどならば楽に暮らせるに違いない。
 そして、家々の後ろ、左側は底の深い崖になっており、右側は山の頂方面や、足元の道へと急な階段でつながっている。その階段のある壁面のような斜度の土地には、陽の光を最大限に受ける角度を作った細い畑が、幾段にも層をなして重なっていた。
「側近以外の方々には、ここで待っていただく。ここからなら村の中であなたがどこにいるか、何をしているか、見通せるはずだ」
 ラバミスの言葉に、フォースは足元の階段を目でたどった。出発前にラバミスの説明にあった通り、階段を下りて広場手前まで行き、そこを右に折れて坂を登る供物台への道筋が、そのままに見て取れる。確かに一目瞭然だ。
「あの道を登れば供物台か」
 緊張のせいか、抑揚のない声が出た。そのまま冷たい視線を向けたフォースに、ラバミスが幾分引きつったような顔を向けてくる。
「途中また岩場で道が消える。このまま案内する」
 ラバミスにうなずいて見せてから、フォースはナルエスに目を向けた。フォースの表情を読んだのか、ナルエスはサッと敬礼をすると、後ろにいる隊に伝達に走った。
 ――リディア――
 側に来ていることで安心でもしているのか、女神のゆったりと落ち着いた声が頭に響く。リディアは会話をするように瞳を閉じ、胸に手を当てている。ティオにも違いが分かるのだろう、その声を恐れるようなことも無い。
 今までになく優しく聞こえる声は、危害を加えるために呼んだのではないと思える。だが、声だけで判断するのは危険かもしれないと、フォースは気を引き締めた。なにしろシャイア神にとって好都合なだけで、人にとって不幸だろうが悲劇だろうが、いっさい気にもとめていない可能性もあるのだ。用心するに越したことはない。
 後ろの隊に待つように伝えたのだろう、ナルエスが戻ってきた。シャイア神に捧げる供物、花や果物を手にしている兵士数人だけが隊を抜け出してくる。後ろの騎士や兵士たちは、それぞれ村を見張るための場所を確保したり、休憩の体勢を取ったりと様々に動いているようだ。

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