レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 40


「いいか?」
 ラバミスの問いに、ああ、と短く答え、フォースは足を踏み出した。ラバミスも慌てて歩き出す。
 村へと続く階段は高低差が激しく、しっかりと足元を見ながら進まなくてはならないため、村の風景を楽しむ余裕はなくなった。だがフォースは、村の様子をうかがうことだけは続けていた。
 三分の二ほど下ったところで、その道の先、広場の手前に人がぽつぽつと集まり始めた。ラバミスと連れだって歩くだけで村を抜けられるとは思っていなかった。村の長もいるだろうし、血気盛んな若者だっているだろう。敵意は無かったとしても、文句のひとつくらいは言いたい奴がいるに違いない。
 階段が終わった辺りで、待ち構える人数は十数人になっていた。遠くからうかがっていたり、家の中からのぞいている者もいる。ティオがいなかったら、たぶんもっと集まったに違いないとフォースは思った。
 集まった人間は、思いのほか若い男が多いようだ。長老と呼ばれるような、それなりに歳を取った人間が姿を現すところを想像していたフォースは、自分より年下だろうと思われる男が前に出たことに少し驚いた。
「待っていた。あなたが皇帝か」
 睨むような強い視線を向けてきた男を、ラバミスがさえぎる。
「我々はシャイア神の言葉こそを大切にしなくてはならない。今はそんな話をしている場合ではないだろう?」
 その言葉で、少なくとも何か問題があるらしいと容易に想像が付く。今ここで話しを聞いておけば、すぐに解決は無理でも、先に女神の元に行くことで、考える時間は取れるとフォースは思った。何も知らずに話し合うよりは、対処もしやすい。
「何の話しだ」
 フォースは若者を止めようとしているラバミスに声をかけた。ラバミスはフォースを振り返って顔をしかめる。
「だから、先にシャイア神のところに行くべきであって、長老以外の人間とする話でも」
「神は人の世界から手を引かれてしまった」
 若者はそう言いながらラバミスを押しのけて前に出た。長老は他にいるのかと安心しながら、止めようとしたラバミスを制し、フォースは若者に先を話すよう促す。

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