レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 42


 若者が上げた大声に、フォースは苦笑して、ゆっくりとうなずいた。
「その通りだ。私に何ができる? 神が降臨しなくなったのは、神の意志だ。いや、もし私に神を説得できるというなら、かわりに君がやればいい。同じ守護者なんだろう? この村の者が神とどんな関わりを持とうと、私に断りを入れる必要も無い」
 反論の余地が無くなったのか、村人たちはシンと静まりかえっている。唇を噛み締めている若者の前にラバミスが立ち、沈黙を破った。
「お前も神の言葉を聞いただろう。神が残ろうとも、私たちはもう神の力を使えない。種族など関係なく生きていくしかないんだ」
「だけど、この状態で、どうやって生きて行けと」
「それは……」
 ラバミスも村人と同じように口をつぐんだ。真ん中に新しい棺が無いのが不思議なくらい、空気が重く沈んでいる。
 フォースは大きくため息をついた。苦々しげに顔を上げた若者に、視線を合わせる。
「わけが分からないな。だいたい、なぜこんな高地で暮らす必要がある? もう神を守らなくてもいいし、神と話す必要もないなら山を下りればいい。山にしがみついているよりは住居の材料は手に入りやすいし、作物も何倍も育つ」
 いくつもの視線がフォースに向けられた。その顔は一様に放心したような表情をしている。
 それも当然かとフォースは思った。これだけに作り上げた村を捨てて行かなくてはならないとなると、決心も未練も、この上もなく大きいだろう。ずっと続いてきた一族なのだ、場所を移したことすら無かったのかもしれない。だがフォースには、それ以外に解決できる方法は思い付かなかった。
「行こう。案内してくれ」
 フォースが声をかけると、ラバミスは心配げな目をフォースに向けてくる。
「あ、あの、荷物は……」
「何の話しだ。行くぞ」
 リディアとあちこち遠くを眺めながら立っていたティオが、はーい、と元気よく返事をして、供物台へと続く階段を上り始めた。慌てているラバミスを無視して、フォースも後に続く。ラバミスは若者たちが気になるのか、何度か振り返ってから階段に足をかけた。

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