レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 43


 階段を登り切り、村が見えなくなった辺りで、ラバミスがフォースに並んだ。
「運んできた作物の苗は……。育て方を教えていただけるのではなかったのか?」
「悪いが、渡す気が無くなった。謝罪の意味に取られては困るからな」
 フォースがそう返すと、ラバミスは声も無くうなずき、列の前へと出て行った。
 確かに、素直に渡す気は無くなっていた。だが、持って帰るのも労力が必要だ。現在隊がいる場所に捨て置いておけば、ラバミスも気付くだろうと思う。
 場所を変えろだなどと、そこまで言ってしまってよかったのか。フォースは自分が口にした、山を下りる、という言葉を、村を離れた今も噛み締めていた。だが、種族の中だけで生きていってくれなくては、ライザナルが彼らの生活を背負わされることになる。ライザナルにとっての正義が、種族の一員としてのフォースの中で、苦味となって広がっていた。
 フォースには、この苦味に覚えがあった。しかも一度ではなく何度もだ。誰もが間違っていないと考える正義でも、裏表を見通すと、そこにどうしても消せないシミが見えてしまうのだ。
 騎士になったその日、命をかけることへの代償を求める気持ちを踏みにじった。城都でソリストとしてのリディアを守った時、センガとダールの命を見捨て、ドリアードのフレアを犠牲にしなければならなかった。マクヴァルを倒した時、人が神に頼らずに自分の足で立たなくてはならないという苦痛を、アルテーリアのすべての人間に強いることになってしまった。
 自分を信じるというのは辛いことだ。自分と相手が対立関係の場合はなおさらだ。それでも、やはりどれも譲るわけにはいかなかったのだとフォースは思う。ここで少しでも意志を曲げてしまったら、今までのすべてが、誰にとっても正義には成り得なくなってしまう。
 今回のこともそうだった。ライザナルを守るために、ひいては種族の者たちのためにも、自分がここで自信を失うわけにはいかないのだ。
 種族の者を思いやったつもりで半端な態度を取るなど、種族の者にとっては侮辱にしか感じないはずだ。いや、無理にでもそう思い込みたかったのは、自分の起源が誇り高いモノであって欲しいという願望があるからかもしれないのだが。
 もしも侮辱と思わず依存してしまうような種族なら、微塵も発展することは無いだろう。ここから先には滅びがあるだけだ。
 フォースはまわりに悟られることの無いよう、静かにため息をついた。

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