レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 46


「私の気持ちもシャイア様の中にあるって事でしょう? それに、きちんと元通りにならないと、シャイア様がディーヴァに帰れないのかもしれない」
 リディアの強い視線に反対する理由が、フォースには無かった。分かった、とうなずいてみせる。
 リディアがシャイア神の光に向かって立ち、フォースを振り返った。フォースはその背中に寄り添うと、リディアに腕を回して支えるように抱きしめる。二人で視線を向けると、虹色の光は返事をするように少し大きくなった。
「シャイア様」
 虹色の光はリディアの真上まで来ると、その身体に小さな光球を落とした。光の雫は留まることなく、リディアの中に入っていく。それと共に、リディアの瞳が緑色に輝きだした。しばらく空を見つめていた目が、ラバミスに向けられる。
「守護者よ」
 リディアと違って少し低い声に、ラバミスは目を丸くし、慌ててひざまずいた。
「神の力無くとも、そなたたちの力があろう」
 かしこまって頭を下げたラバミスを見て、緑色に光る瞳が笑みを浮かべる。
 降臨を受けて間のない頃、リディアの意識は表に出ることはなかった。瞳の色を見て、今もその状態なのかもしれないとフォースは思った。リディアの身体に回したフォースの手に、リディアの手が添えられる。
「すべて返す」
 そう言って振り返ったリディアの瞳から、少しずつ緑色の光が抜けていく。フォースはリディアを抱きしめる腕に力を込めた。
「フォース」
 まだ低い声で名を呼ぶと、リディアの唇がフォースの唇に重なった。
 フォースは薄く開いた目で、すぐ側で閉じられているまぶたを見ていた。身体はリディアのままなのだが、このキスはリディアのモノではなく、シャイア神のモノだと確信する。
 虹色の光が辺りの空気に溶けていくにつれ、リディアの目に少しずつ意志が戻ってきた。キスをしている自分に驚いたのか、一瞬目を見開いたが、その目が笑みで細くなる。
「大丈夫か?」
「ええ、平気よ。入れ替わっていた分も、元通りになったと思うわ」
 まだ解いていない腕の中で、今度はリディアがいつもと変わらないキスをした。フォースは安心すると同時に、抱きしめる腕に力を込める。
「よかった」
「でもね」

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