レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 51


「それは、いつもと違ったから印象に残っただけだろ?」
 そう? と、決して肯定ではない返事をして、ネブリカは夜具を一気にまくり上げた。少しひんやりした空気が身体を包み込むと同時に、ネブリカのかん高い悲鳴が響き渡る。レイサルトは思わず上体を起こし、両手で耳をふさいだ。
「レイっ、何でなんにも着てないのっ?! しかも隠すとこ違う!」
「声がでかいって!」
 レイサルトが怒鳴り返してやっと気付いたのか、ネブリカはハッとしたように口に手を当てた。
「それと、見たくないなら背を向ければいいだろ」
 そう言ってはみたものの、レイサルトの視線は、キョトンとしているネブリカの視線と合ったままだ。レイサルトは自分がネブリカに背を向け、用意していた衣服を着け始める。
「昨日の晩バックスさんに無理やり酒を飲まされたから、夜着を着るのも面倒臭くて。脱ぐだけ脱いで寝たんだ」
 レイサルトがしたいいわけに、壁にぶつかったようなため息が、背中から返ってきた。
「飲む方も飲む方だけど、飲ませる方も飲ませる方なのよね……。二日酔いになってない?」
「なんとか無事」
 レイサルトは、ネブリカとのやりとりで、いいわけがとりあえず通じたのかとホッとした。
「そうそう、フォース様とリディア様、もうじきいらっしゃるって。ドナに到着されたらしいわよ。まっすぐタスリルさんのお店に向かうって連絡があったわ」
 その声に振り向くと、ネブリカは背を向けたままレイサルトに手を振ってくる。
「食事のしたく、できてるわよ。待ってるわね」
 ネブリカはレイサルトを見ることなく部屋を出て行く。服はもうほとんど着終わっているので、そんな話し方をしてもらう必要はなかった。だが、ネブリカにはレイサルトの状況が見えないので仕方がない。レイサルトは慌てて上着をつかみ、ネブリカの後を追った。

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