レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 53


 グレイは、レイサルトの後ろから外に出ると、バックスに経緯を説明している。ニーニアはアルトスに、久しぶり、と声を掛け、小さな鍵で戸締まりをしてから階段を上がってきた。行こう、と促され、レイサルトはグレイの隣に並んで歩き出す。
「一人でおつかいに行ってきたレイを見たら、タスリルさん、喜んだだろうな」
「おつかいって」
 言い方には引っかかるが、確かにおつかいには違いない。レイサルトは肩をすくめた。
「でも、たいしたことしてませんから」
「おや? 言うねぇ」
 肯定されなかったことに驚き、レイサルトはグレイの目を見上げた。その視線はレイサルトに笑いかけ、また前を向く。
「フォースはたいしたことじゃないことを、真剣に毎年続けているのかな?」
「そ、そんなことは……」
 無いと言いきれず、レイサルトは眉を寄せた。
「でも、父は種族のことを解決していたのに、私は」
「国の代表として、メナウルとのことを解決していた。フォースはレイがいなかったら困ったと思うぞ?」
 そう言われても、帰りに父がメナウルに寄れば、それで万事解決しただろうとレイサルトは思う。浮かない顔のまま、視線を上げることはできなかった。
「納得がいかないみたいだね。じゃあ、もう一つ理解してもらおうかな」
 グレイの声が引き締まった気がして、レイサルトはその顔を見上げた。グレイは前を見たまま、ゆっくりと息を吐いてから口を開く。
「まぁ、フォースに聞けばいいか」
「は?」
 思い切り気が抜けた声が出た。レイサルトはグレイに疑いの目を向ける。
「今回のことで、私が理解できていないことがあるんですか?」
 グレイは、あるよ、と言って大きくうなずいた。
「でも大切なことだから、私が口を出すべきじゃないのかもな」
 そう言われてしまっては、それ以上追求できない。レイサルトは何も聞けず、ただ黙ったまま歩みだけを進めた。

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