レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 55


「まさか」
 素で疑問を返し、フォースは眉をしかめた。
「私がフォースに母みたいな感情を持っているって言ったでしょう? それ、シャイア様の感情だと思っていたのだけど違ったのよ。きっとシャイア様も、恋愛感情は私のモノだと考えていらしたに違いないわ」
 リディアが穏やかに微笑んでいるのを見て、ジェイストークが胸をなで下ろす。
「では、シャイア神はその勘違いのせいで、今回入れ替わっていた感情を戻さなければならないと考えたのでしょうか」
「いえ。入れ替わっていたのは、予想外の部分だっただけ。戻さなくてはならなかったのは確かだわ」
「無駄ではなかったということですね」
 ジェイストークの表情は、すっかり元に戻っている。フォースは、リディアが自分を責めるつもりがなさそうだと感じてホッとした。
「だけど、どうして入れ替わっていた、なんてことになっていたんだ?」
「それなのだけど。多分、サーディ様とのことを慰めてくれたのかもしれないわ。……、あ」
 リディアは明らかに余計なことを言ったという顔をしてから、そのままの表情で苦笑の息を漏らした。
「サーディとのことって? 慰めるって一体……」
 フォースはリディアの顔をのぞき込んだ。リディアはいかにも言いづらそうに、それでも口を開く。
「フォースがライザナルに行って随分経って、そう、呪術の本を見つけたことを手紙に書いた頃だったかしら。講堂の裏の廊下で、少しの間、……、ギュって抱きしめられて」
「はぁ?! なんでそんな」
 思わず大きな声が出て、フォースは言葉をのどに押し込めた。ジェイストークがオロオロしているのを邪魔に思う。
「フォースがライザナルに行ったあとは、私がシャイア様そのものみたいな役目だったの。辛いことがあったんだと思うわ」
「だけど」
「もちろん嫌だったわよ」
 視線を合わせて真剣な声で言ったリディアは、はにかんだような微笑を見せた。
「シャイア様は、嫌がっていたのを分かってくださったの。それからすぐにシャイア様と感情の交換があって、グレイさんやお父様にまで白い光が飛ぶようになったから……」

56へ


前へ シリーズ目次 TOP