レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 57
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レイサルトが神殿に着いたのと同時に、フォースとリディアがヴァレスの街に入ったとの知らせが届いた。もうあと少ししたら、両親と顔を合わせることになるのだ。
レイサルトは、自分と会った両親がどんな反応をするのかが不安だった。メナウルとの取り交わしなどは、両親が毎年行っているのと同じように、無難にこなせたと思っている。だが臨機応変にできているかと言われたら、首を捻る以外無かった。
店を出てすぐにグレイが言っていた言葉も、ずっと気になっている。レイサルトには、自分がメナウルに滞在することがどうして大切だったのか、まるきり見当を付けられないでいた。
バックスを外に置いたまま、グレイ、ニーニア、アルトスと共に神殿に入る。グレイに勧められ、ソファに落ち着いたレイサルトの前に、お茶が置かれた。その手をたどって見上げると、アリシアが微笑んでいる。
「どうぞ」
「出掛けたって、ここだったんですか」
そうよ、とうなずき、アリシアはレイサルトの横に腰掛けた。
「レイはネブリカのこと、どう思う?」
「え? どうって……」
聞かれたのが見た目のことか性格のことか、それとも他の意味合い、つまりは恋愛感情のことを聞かれたのかが分からず、レイサルトはただ苦笑した。アリシアはため息をつくと、眉を寄せる。
「髪も短く切っちゃうし、ドレスは着てくれないし。少しは女の子らしくして欲しいと思っているのだけど」
ネブリカに対する自分の感情を聞かれたのではないと分かり、レイサルトはホッとした。
「らしくしていなくても、ネブリカさんは、ちゃんと女の子ですよ」
「そう? そう思う?」
パッと明るい顔になったアリシアに、レイサルトは面と向かってうなずいてみせる。極上の笑みで、よかった、とつぶやいたアリシアは、もう一度レイサルトに視線を合わせてきた。
「安心して聞けるわ。ネブリカのことどう思う?」
同じ台詞だが、さっきの台詞とは明らかに意味合いが違う。
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