レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 59
「結婚ってお互い関わり合うモノだから、あながち間違いでもないんじゃ?」
グレイはアリシアに向けてそう言うと、フォースには、いらっしゃい、と笑みを見せた。アリシアは、グレイにも肩をすくめて見せ、廊下へと入っていった。
フォースはグレイに笑みを返すと、レイサルトの目の前に立った。その向こう側には、いつものようにリディアの穏やかな笑みが見えている。
「元気そうでよかった」
そう言ってポンと肩に置かれた手が、レイサルトにはとても大きく感じた。やはり、将来自分がこんな手を持てるとは思えない。
「父上。母上もお元気そうでなによりです」
「本当に、悪いことが起きなくてよかったわ。レイが勤めを果たしてくれたこと、誇りに思います」
リディアの言葉に顔が赤くなった気がして、レイサルトは慌てて頭を下げた。張っていた気が一気に緩んだような脱力感が、身体を支配している。
ふと、グレイの目配せが目に付いた。グレイは、今回のことでレイサルトが理解していないことがあると言っていた。それを聞けというのだろう。
「私がメナウルに滞在したことに、何か意味があったんですか?」
レイサルトの視界の隅で、グレイがわずかに微笑んだ。その笑みを見てグレイが一枚噛んでいることを悟ったのか、フォースはリディアと苦笑を交わしてから、レイサルトに向き直る。
「今回メナウルに一人で行ってもらったのは、悪いことが起こった場合を考えてのことだ」
「悪いこと、ですか?」
ほんの少し前、リディアもそう言っていた。レイサルトの問いに、フォースはしっかりとうなずく。
「なにせ神が相手だ。私たちはディーヴァ、レイはメナウル、弟たちはライザナルにいたことで、もしどこかで何か起こったとしても、全員が影響を受ける割合は低くなる。あとは分かるな?」
確かに、国の中心として誰かが残れば、混乱は最小限に抑えられるだろう。その存在を芯にして、国は静かに移り変わっていくことができるのだ。
「思い至っていませんでした」
「まぁ、神が私たちを否定するなら、どんな手を尽くそうと、生きていられることは無いのだがね」
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